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アイヌ語地名の傾向と対策 (10) 「士幌」

楽勝かと思われた「帯広」「音更」でまさかの各駅停車、このペースだといつまで経っても Oh What A Night ! ということで……。

士幌(しほろ)

shu-horo-pet??
鍋を・水につけた・川
(?? = 典拠あるが疑問点あり、類型未確認)

……ちょっと待て(←)。実は、この連載?は山田秀三さんの「北海道の地名」(草風館 ISBN4-88323-114-3)を(事実上の)底本とさせてもらっているのですが、ここに来てどうにもあっさりした記述が多く……。「士幌川」に至っては「語義の分からない名である」と断言されてしまいました(涙)。安西……じゃなくて山田先生~~!

やっぱり鍋が好き

ということなので、まずは永田方正「北海道蝦夷語地名解」で確認してみましょう。曰く、Shu-oru-pet で「鍋川」という意味で、「古夷鍋ヲ川ニ入レタル處故ニ名クト『アイヌ』云フ今士幌川ト云フハ松浦地圖『シユボロ』トアルニ因テ誤ルナリ」と云ふ、のではなくて言うのですが……。

「松浦」とあるのは、「北海道」の名付け親としても知られる「松浦武四郎」のことです。自らを「北海道人」と号しましたが三重県出身です(←

子曰く、「ウケてなんぼ」(←

アイヌ語の地名解を見ていると、「『アイヌ云フ」というものの中には「地名解」ならぬ「地名説話」が多く含まれていることに気づきます。それなりに意味は通っているようでいて、実はナンセンスで面白おかしいものが多いのですが、これはアイヌの人々が口承文学の使い手であったことも強く影響しているように思えます。より平たく言えば、「ウケないと後世に残らない」といった所もあったのではないかと……。

例えば、今回の「シホロ」の場合、次のようなストーリーが語られたそうです。

かつて北見アイヌが十勝に押しよせてきて戦い,十勝アイヌに敗れて退散する時,鍋を投げ捨てた川であったという伝説がある(士幌のあゆみ)。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.667 より引用)

この伝説が「北海道蝦夷語地名解」にも採録され、「古夷鍋ヲ川ニ入レタル處故ニ名クト『アイヌ』云フ」という脚注になった……というわけです。山田秀三さんは、この意味なら shu-horo-pet(鍋を・水につけた・川)だろうか、としているわけですが、私なんかは「なんで鍋なの?」という疑問を持ってしまいます。語義に合わせるために、後付けでとってつけたんじゃないかな、と。

それにしても、十勝アイヌは他の地域と比べてこういった武勇伝が多いような気が……。しかも、最後には十勝アイヌがちゃんと勝つようになっているというのもポイントでしょうか。そういえば「十勝」も「10勝」で二桁勝利ですよね(←

しかも隣は……

もっと素直に考えると、si-poro-pet で「大河の本流」という解釈も出来そうなのですが、ここで問題となるのが「士幌川」はとても「大河」とも「本流」とも言えそうにない……ということです。西隣にあるのは「伊忽保川」(イコッポ川)という小河川ですが、見たところ士幌川と似た規模にも思えます。なのに片方だけ「本当に大きな川」と呼ぶのも、ちょっとおかしいよね、と。

シホロ川は、実は意外と大きな川

あ、でも、「伊忽保川」の源流が士幌町の手前なのに対して、「士幌川」はもーっと北の、上士幌町足寄町の境まで遡ることができますね。

この地図を見ると、「伊忽保川」と「士幌川」がおそろしく沢山枝分かれしていることがおわかりかと思いますが、逆に、これだけ似たような川があるのであれば、「本流」であること自体が情報として必要となる……という考え方もできそうな気がします。実際に poro-petporo-nay には「なんでこんな小さな川を『ポロ』(大きい)と呼んだのかわからない」というケースも少なくないと聞きます。この「士幌川」も同じようなケースなんじゃ……と思うのですが、どうでしょう?

ぎゃぁぁぁ……。また今日も各駅停車だ! orz

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