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アイヌ語地名の傾向と対策 (144) 「エコキナイ・ヲパシトロマナイ・起登臼」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院電子国土Webシステムから配信されたものである)

エコキナイ

e-koyka-nay???
南・川
(??? = 典拠なし、類型未確認)

「手然」と「香深井」の間にある小地名です。あまり似た地名を耳にしないのですが、さて、これは一体……?

そうですねぇ。e-koyka-nay だとすれば「南・川」とでもなるのでしょうか。koyka だと「東」なのですが、e-koyka は「南」だ……と萱野さんの辞書に書いてあるので、一応それに従ってみました。

ヲパシトロマナイ

opasi-to-or-oma-nay???
川下に・沼・ところ・そこにある・川
(??? = 典拠なし、類型未確認)

「香深井」と「起登臼」の間の小地名です。国土地理院の地図で見ても、建物が数えるほどしか無いので、本当に小さな集落……と言えそうですね。

「ヲパシトロマナイ」の解釈には随分と悩んだのですが、opasi-to-or-oma-nay で「川下に・沼・ところ・そこにある・川」ではないでしょうか。

……またしても to です。案の定、「ヲパシトロマナイ」のあたりにも「沼」らしきものはありません。礼文における to は、何か別の意味があるのではないかと考えたくなります。もちろん「海」と解釈することも可能ではあるのでしょうが、「川下に海のところがある川」というのは何とも意味不明です。

仮にですが、「海」が「塩水」を意味するのであれば、河口部に汽水域がある川は別に不思議でもなんでもありません。塩分濃度以外でも、「川」と「海」を区別する何らかの指標があって、それに該当するものが河口域に存在するのであれば、「川下に海のところが──」という名前にも意味が出て来るのですが、さて、実際の所はどうでしょうか……。

起登臼(きとうす)

kito-us(-i)
ギョウジャニンニク(の球根)・多くある(・所)
(典拠あり、類型多数)

「香深井」と「内路」の間、ヲパシトロマナイから少し北に行ったところで、同名の川もあります。これは……簡単ですね(にっこり)。

では、我らが更科源蔵さんの「アイヌ語地名解」からどうぞ!

内路より二キロほど香深寄りのところ、旭川の近くでは鬼頭牛などと誤解されそうな当て字をしているのと同じ。行者蒜のたくさんある所の意味である。

はい。出ましたギョウジャニンニク! あれは本当にニンニクっぽい匂いがする薬草なんですが、匂いだけならむしろ本家ニンニクよりも数倍するんじゃないかと……。とにかく、すごいです。匂いが(笑)。

では、続きを見てみましょう。

現在、起登臼と呼ばれているところは、昔ポンナヨロと呼んだところで、本来のキトウシは、そこから二キロ南の岬のあたりで、その近くにキトタトマリという地名がある。
更科源蔵更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.213 より引用)

ふーむ、本来のキトウスは現在の起登臼よりも 2 km ほど南ですか……。となるとヲパシトロマナイの近くだったことになりますね。へぇ~

……と、長々と引っ張ってみましたが、地名の由来は kito-us(-i) で「ギョウジャニンニク(の球根)・多くある(・所)」でした!

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