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アイヌ語地名の傾向と対策 (190) 「タユシナイ川・キタルシナイ川・ペンケウタスイ川」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院地理院地図から配信されたものである)

タユシナイ川

tay-us-nay??
林・ついている・川
(?? = 典拠なし、類型あり)

平取町貫気別(ぬきべつ)で南流して額平川に注ぐ支流の名前です。音からは tay-us-nay かなぁ、と思わせます。これだと「林・多くある・川」となりますね。

松浦武四郎の「東西蝦夷山川地理取調図」を見てみると、タユシナイ川のところには「タユンナイ」とあります。なるほど、これだと tay-un-nay だと考えられますね。「林・そこにある・川」といった感じでしょうか。少し後に作られた「官板実測日本地図」でも「タユンナイ」になっているようです。

一方で、「東西蝦夷──」の本文とも言える「東蝦夷日誌」には「タユシナイ」とあります。さて、これはどう考えたものでしょう。

松浦武四郎の字は崩し方が独特で、読みづらいことでは定評があったそうです。ですから本人が「タユンナイ」と書いたつもりが「タユシナイ」と *解読* されてしまったという可能性がひとつ、もうひとつは un でも us でも通用していたという可能性です。

一説では usun の複数形とも言われ、unus を入れ替えてもそのまま通用しそうな例もありそうな感じです(何となく「使い分け」の基準もありそうな気がしますが)。「タユシナイ」でも「タユンナイ」でも通用していたというのであれば、unus の可換性がある例と言えそうですね。

国土地理院の「電子国土Webシステム」が先月末でサービスを終了したため、今月からは「地理院地図」に変更しているのですが、地理院地図の新版ではこの川が「タシュナイ川」になってしまっています……。orz 歴史的経緯から見ると「タシュナイ」は明らかに間違いだと思うのですが、どうしたものでしょうね。

キタルシナイ川

kuttar-us-nay??
イタドリ・群生する・川
(?? = 典拠なし、類型あり)

タユシナイ川と同じく額平川の支流で、タユシナイ川の西隣を南流しています。「キタルシナイ」は松浦武四郎の「東蝦夷日誌」にも記録がある由緒正しい?川名ですが、どういう意味なのでしょう。仮説が無いわけでは無いのですが……。

「東西蝦夷──」を見ると、キタルシナイ川と思われるあたりに「クタルンナイ」とあります。ああ、これだったら何となく意味が掴めそうな気がします。kuttar-un-nay と解釈できるのですが、これも kuttar-us-nay のほうがより自然な形のように感じます。これだと「イタドリ・群生する・川」になりますね。

ちょっと気になるのが、「ク」が「キ」になる例が他にあるのかな? という点です。「東西蝦夷──」の「クタルンナイ」を無視していいのであれば kina-us-nay の可能性もありそうなんですけどね。

ペンケウタスイ川

penke-ota-suy
川上・砂浜・穴
(典拠あり、類型あり)

貫気別と荷負(におい)の間で北流して額平川に注ぐ支流の名前です。隣に「パンケオタスイ川」があります。「ウタスイ」と「オタスイ」ですが、おそらく由来は同じでしょう(「オタ」が「ウタ」に転訛する例は多いです)。

「東西蝦夷──」では、ペンケウタスイ川のところに「ヘンケヲタシユ」、そしてパンケオタスイ川のあたりに「ヲタシユ」と記されています。やはり「ウタ」あるいは「オタ」は ota であると考えて良さそうに感じます。

「ヲタシュ」と聞いて思い出すのが、樺太の敷香にあった「オタスの杜」です。この「オタス」は ota-sut で「砂浜・根もと」といった意味なのですが、現地の地形との適合性がある反面、「ウタスイ」からは少し乖離があるのが難点です。

「ウタスイ」と「オタシュ」の両方で違和感の無い解を考えてみると、ota-suy あたりでしょうか。これだと「砂浜・穴」となります。似たような事例が無いか調べてみたところ、なんと、新得町に「パンケオタソイ川」「ペンケオタソイ川」がありました。

読みにくい地名なので日高の萱野茂氏に相談したら,オタスイなら沙流川筋の額平川にもある。ぼろぼろな砂岩にシュイ(スイ。穴)があってその名がついたと語られた。
山田秀三北海道の地名」草風館 p.320 より引用)

……そのまんまでしたね。「ペンケウタスイ川」は penke-ota-suy で「川上・砂浜・穴」と考えて良さそうです。

(この背景地図等データは、国土地理院地理院地図から配信されたものである)

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