やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
斗伏(とぶし)
足寄町北部の地名・川名で、地名では「下斗伏」と「上斗伏」に分かれています。川名も同様に「パンケトブシ川」「ペンケトブシ川」となっています(ペンケトブシ川の支流で「ペンケトブシ小川」もあります)。
では早速ですが、山田秀三さんの「北海道の地名」を見てみましょう。
利別川西岸にパンケ(下の),ペンケ(上の)のトプシ川が並流して注いでいる。たぶんトプシ・ナイ(top-ush-nai 竹が・群生する・川)のような川名の下略形であろう。
ふむふむ。top-us-nay で「竹・多くある・川」ですか。確かに明治期の地図を見ても「パンケトプウシ」「ペンケトプウシ」とあるので、山田さんの解で間違いなさそうな感じがします。
ちなみに、念のため「東西蝦夷山川地理取調図」もチェックしてみたのですが、東西蝦夷──では「ルフシユイ」「ヘンケルフシユイ」とあるのが現在の「パンケトブシ川」「ペンケトブシ川」に当たるようです。
「ルフシユイ」と「パンケトブシ」の由来は同じ……と考えるのは、さすがにちょっと無理がありそうな気がします。「ルフシユイ」を素直に解釈すると rup-us-i あるいは rup-us-nay となるでしょうか。rup-us-nay であれば「氷・多くある・川」といったところでしょうか。
大誉地(およち)
足寄町北部の地名です。鈴木宗男の出身地が足寄町大誉地なのだそうですね。かつては国鉄池北線(→北海道ちほく高原鉄道ふるさと銀河線)の駅がありました。
というわけで、まずは「北海道駅名の起源」から。
大誉地(およち)
所在地(十勝国)足寄郡足寄町
開 駅 大正2年10月11日
起 源 アイヌ語の「オヨチ」からとったもので、「熊の害の多い所」の意であるというが、「オ・イ・オチ」(川のそばにヘビの多い所) からとったという方が正しいようである。
ふーむ。何だか良くわからない話になっていますが、「余市」と似た語源なんでしょうかね?
山田秀三さんの「北海道の地名」も見てみましょうか。
大誉地 およち
足寄町北部,利別川西岸の地名,川名。永田地名解は「オヨチ。熊害多き処。熊の人を殺すをオヨチと云ふ」と書いた。
あー、何だか良く分からないのは永田地名解の記載だったのですね。「熊の人を殺すをオヨチと云ふ」というのは、微妙に間違った解釈のような気がします。
北海道駅名の起源昭和37年,48年版は,ー応永田説を紹介してから「オ・イ・オチ(川のそばにヘビの多い所)からとったという方が正しいようである」と書いた。
念のため「昭和29年版」も確かめましたが、同様に「オ・イ・オチ」説をプッシュしていました。o-i-ot-i で「河口そこに・アレ・多くいる・ところ」と解釈できそうですね。気になるのが「アレ」の正体ですが……
その中のイ(それ)は,恐ろしいもの,貴重なものを直接口でいうのを憚かって「それ」といったもので,熊であったり,蛇であったり,あるいは菱の実であったりする。この場合は ot(ごちゃごちゃいる)という動詞から見て熊か蛇らしい。
ふむふむ、なるほど。山田さんは「熊か蛇らしい」と断定を避けていますが、更科源蔵さんは次のように記していました。
オヨチはアイヌ語のオ・イ・オチでそこに蛇の多いところからでたもの。
例によって例の如く、なぜ「蛇」と断定できるのかについては記載がありません。残念!
登良利(とらり)
足寄町大誉地から見て、利別川の向かい側にある集落です(上登良利・下登良利に分かれているようですね)。大誉地の南側に位置しますが、登良利は陸別町に所属します。利別川が町境になっているからなのですが、ちょっと不思議な感じもしますね(陸別は足寄の北東に位置します)。
今回は、久しぶりに我らが「角川──」(略──)を見てみましょう。
地名の由来は,アイヌ語のトラリ(細い川の意)による(淕別村史)。
んっ? 「トラリ」なんてアイヌ語があったかな……? という漠然とした疑問を抱きつつ、セカンドオピニオン行ってみましょう。更科さんの「アイヌ語地名解」からどうぞ。
ここにあるトラリという小川の名から名付けられたもので、大誉地から足寄川の支流プシュナイ(穴のある川)へ出る道路のある川、ト゚ラシのなまったので「それに沿ってのぼる」の意かと思う。
なるほどっ。turasi が訛って「トラリ」になったと言うのですね。turasi は「それに沿ってのぼる」という意味で、おそらく -nay あたりが下略されたのだと思います(あるいは -pet かも)。
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