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アイヌ語地名の傾向と対策 (240) 「崎無異・鬼尾内川・植別」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院地理院地図から配信されたものである)

崎無異(さきむい)

sak(-ipe)-moy
夏(・食料)・静かな海
(典拠あり、類型あり)

標津町北部の地名で、同名の川の河口部に集落があります。それでは今回も山田秀三さんの「北海道の地名」から。

崎無異 さきむい
 標津町北部の地名,川名。語義ははっきりしない。松浦図の時代からサキムイであるが,永田地名解は「サキベ・モイ。鱒・川。一説シャク・モイ。夏・湾の義。此湾夏日鱒漁を為す故に名く(道志)」と書いた。
山田秀三北海道の地名」草風館 p.231 より引用)

確かに東西蝦夷山川地理取調図には「サキムイ」とありますが、明治期の地形図には「サキベモイ」とありますね。ところが現在は「崎無異」に先祖返りしてしまった、ということになります。

セカンドオピニオンということで、更科源蔵さんの見解も伺っておきましょう。

 崎無異(さきむい)
 薫別から四キロほど羅臼寄りの部落、ここにある崎無異川からでたもので、古い五万分図ではサキペモイ川とあり、松浦地図にはサキムイとある。サキペ・モイはサㇰ・イペは夏の食糧で鱒のこと、鱒の入江ということである。


ふむふむ。ほぼ見解は一致しているようですね。sak(-ipe)-moy で「夏(・食料)・静かな海」と考えてよさそうです。moy を「入江」とせずに「静かな海」としたのは、崎無異のあたりの海は入江とは言いがたい形状をしているからです。

鬼尾内川(おにおない──)

o-ni-o-nay??
河口・流木・多くある・沢
(?? = 典拠なし、類型あり)

崎無異の少し北側を流れている川の名前です。標津町の Web サイト(http://www.shibetsutown.jp/dic/contents/03/0303/027.html)には o-ni-chu-us-nay で「川口に波がいつもある川という意味である」とありますが、あれ、ni はどこへ行ったのだろう……?

明治期の地図には「オニオナイ」とあり、時代を遡って東西蝦夷山川地理取調図を見てみると、そこには「ホニヲイ」とありました。「ホニヲイ」と言えば、根室に「穂香」というところがあるのですが、そこと全く同じ音ですね。

標津町の Web サイトにあった「オニチウナイ」という音のことは一旦措いて、「ホニヲイ」と「オニオナイ」から解を考えてみると、根室市穂香と同様に o-ni-o-i あるいは o-ni-o-nay といった解が考えられます。「河口・流木・多くある・もの」あるいは「河口・流木・多くある・沢」ではないかと思うのですが、いかがでしょうか。

「流木」と言えば貯木場のイメージがあるのですが、もっと小振りな枝が打ち寄せられているような感じだったのかも知れませんね。もちろん乾燥していないとダメですが、薪として重宝したのではないでしょうか。

植別(うえべつ)

wen-pet
悪い・川
(典拠あり、類型多数)

標津町羅臼町の境を流れる川の名前です。かつては「植別村」という村もありましたが、現在は羅臼町に含まれています。

東西蝦夷山川地理取調図には「ウエンヘツ」とあり、明治期の地形図には「植別」という村の名前と「ウエンペッ」という川の名前が記されています。wen-pet で「悪い・川」だったと見て問題無いでしょう。

更科源蔵さんは、次のように記しています。

植別(うえんべつ)
更科源蔵更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.281 より引用)

おおっ、いきなり読みから違いますね。

羅臼町海岸部落。羅臼町は昭和五年まで植別村といった。近くにある植別川から出たもので、この川は奥に入ると峡谷になり、山歩きをするに足場の悪いところだったので、悪い川(ウエンベツ)と呼んだものである。
更科源蔵更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.281 より引用)

ふむふむ。足場が悪いから「悪い・川」という説ですね。一方で山田秀三さんは次のように記していました。

 同氏知床日誌は「ウエンヘツ。川有。昔し此所に人家有りしが,疫病流行して今の所に引移りしと。依て悪川の名有るか。今は人家なし」と書いた。また永田地名解は「ウェン・ペッ。悪川。此川のほとりにアイヌ村ありしが,悪疫流行のとき今のウェンペッ村に転居せり。千島資料に旧地名解を引きて云ふ。此川にて蝦夷折々溺死する故に此名あり」と記した。
 古い上原熊次郎地名考は「悪しき川と申す事。昔時此川において折節夷人溺死するゆへ字(名)になしてより其義なしといふ」と書いた。
山田秀三「北海道の地名」草風館 p.230-231 より引用)

wen(悪い)系の地名にありがちなことですが、ここでも一体何が悪かったのかが一定しません。「人がおぼれることがあったから」という話が、いつの間にか「疫病が流行したから」という話に変わっていたりします。案外、どちらも正しかったりするのかもしれませんが……。

上原氏の聞き書きの後段は興味がある。悪い川と呼んで,近寄らないように,あるいは注意して通るように,といった意味を含めた名であったか。もしかしたら魔除け的な意味もあったのかもしれない。とにかく全道的に,ウェン(悪い)のつく川がやたらにあることに留意したい。
山田秀三「北海道の地名」草風館 p.230-231 より引用)

カムイワッカ」という地名も道内各所にありますが、場所によっては、有毒成分が多く飲用に適さない水を差している場合があります。これと同じような感じで「危険な川である」という風に注意喚起するための地名だったのかもしれませんね。

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