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日本最長路線バスの旅(番外編)#5 「公的インフラとしての鉄道」

三重県は熊野市東部にある「新鹿駅」に到着しました。ちなみに「新鹿」で「あたしか」と読みます。

ホームの北側にあるスロープを下りて構内踏切を渡った先に駅舎があります。

写真を整理していて「あれ……?」と思ったのですが、この写真はどこかで見たことがあるような……。そうそう、この写真です。

この写真は前回の記事でご紹介した「大泊駅」のものでした。駅の構造も然ることながら、立地も凄く似てますよね。このあたりはリアス式海岸で、入江の部分に集落ができるので、どうしても集落の立地が似通ってくるのですが……。

Wikipedia にも次のようにありました。

周りの駅も開業の時期がほぼ同じなので駅舎の意匠はよく似ている。
Wikipedia 日本語版「新鹿駅」より引用)

ですよねぇ。この新鹿駅は 1956 年に開業後、1983 年に国鉄合理化の一環として無人化されたとのことですが、実際には 1992 年ごろまで熊野市駅から職員が派遣されていたのだとか。このあたりは並走する国道 311 号の輸送力が貧弱だった(場所によっては未開通区間もあった)ため、鉄道の重要性が比較的高かったとされますが、今では国道もしっかりと整備されてしまったので、昔と比べると鉄道の重要性は下がっているみたいです。

逢神坂トンネル

さて、新鹿駅を出発すると、線路は 90 度近く向きを変えて短いトンネルに向かいます。

この写真、よーく見るとトンネルの入口が見えているんですよね。トリミングするとこんな感じです。

新鹿から、この先の三木里までが、紀勢本線で一番最後に開通した区間なのだそうです。つまり、このトンネルは紀勢本線で最も新しいトンネルの一つ……となる筈なのですが、何しろ開通も 1959 年のことですから、既に半世紀以上昔の話ですね。

戦後の開通ということで、紀勢本線は新鹿の向かいにある遊木町を完全にスキップして、熊野古道の逢神坂峠・二木島峠沿いを一直線にトンネル(逢神坂トンネル)で通り抜けます。トンネルを抜けると二木島湾が見えてきます。

二木島駅

二木島駅に到着しました。大変残念なことにホーム・駅舎ともに山側にあったので、駅の写真はありません。駅の開業は路線の開通と同時の 1959 年とのことで、新鹿駅よりはコンパクトな駅舎があるようです。

前方の山の間に立派な橋が見えていますが、あれが国道 311 号の橋みたいです。

二木島の集落と海の間の僅かな隙間に建設された現道を拡張するのは無理だと判断したのか、あるいは最初からバイパスを建設する気だったのかは良くわかりませんが、隣の遊木町に向かう二木島トンネルの入り口が海抜 75 m あたりにあったこともあってか、国道はあんなに高いところに建設されたみたいですね。

随分と近代的な橋に見えますが、国道のルートは割と無駄な線形を余儀なくされているのが面白いですね。

(この背景地図等データは、国土地理院地理院地図から配信されたものである)

公的インフラとしての鉄道

国道 311 号はこの先も二木島湾沿いを東に進みますが、紀勢本線熊野古道沿いのルートを「曽根トンネル」一本でズバっと通り抜けます。このルート選定について、Wikipedia に面白いことが書いてありました。

紀勢本線の線路は二木島を経由するため、大きく迂回している。本来の計画では賀田から新鹿までを1本のトンネルで直接結ぶはずであったが、二木島の人々の陳情により、トンネルを大きく2つに分けた上、ルートを変更したといわれる。
Wikipedia 日本語版「二木島駅」より引用)

ふーむ。どうやら当初は現在の「熊野尾鷲道路」のルートで建設しようとしていたのですね。改めて地形図で見てみると、熊野尾鷲道路のルートのほうがトンネルの数も少なく済みますし、トンネルの長さ自体も曽根トンネルとほぼ同じで済んだように見受けられます。

ただ、当時は(現在の国道 311 号線の)二木島トンネルも存在しなかったでしょうし、他所に移動するにはそれこそ熊野古道を通るしか無かったのでは無いか、と思われる節もあります。現代ではともすれば「我田引鉄」の誹りを受けかねない「陳情」だったかも知れませんが、当時の二木島の人にとっては文字通りの「死活問題」だったのでしょうね。

結果として陳情は受け入れられ、紀勢本線は二木島経由のルートを通ることになりました。当時の鉄道が文字通り「公的インフラ」だったことの証明とも言えそうですね。

熊野市から尾鷲市

紀勢本線は曽根トンネルの通過中に尾鷲市に入りました。トンネルを抜けると目の前には賀田湾の景色が広がっていました。

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