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アイヌ語地名の傾向と対策 (313) 「湧洞沼・ペンケオラップ川・ニベシベツ川」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院地理院地図から配信されたものである)

湧洞沼(ゆうどう──)

yu-un-to
温泉・ある・沼
(典拠あり、類型あり)

豊頃町の最南部にある潟湖の名前です。湧洞沼に注ぐ川の名前は「湧洞川」で、また湧洞川の中流部には「湧洞」という地名もあります。

では、まず更科源蔵さんの「アイヌ語地名解」を見てみましょう。

 湧洞沼(ゆうどうぬま)
 大津海岸の沼。永田氏は「ユウンドー。湯沼。沼中ニ温泉湧出シ沼水タメニ小温アリ、土人「ユド」卜云フ」と解いている。

ふむふむ。「ユウンドー」は yu-un-to で「温泉・ある・沼」でしょうか。となると沼の近くに温泉があったとも考えられそうですね。ただ、更科さんはあまり納得していなかったようで……

温泉のある沼とも思われないが、永田説によることにする。
更科源蔵更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.239 より引用)

不承不承感が満載です(笑)。

続いて山田秀三さんの「北海道の地名」から。

上原熊次郎地名考は「ユウトヲとは温泉の沼と訳す。此沼に温泉のある故地名になすといふ」と書き,松浦氏東蝦夷日誌は「此沼に神霊ありて時々温み,また冷になる(トラノ申口)」と書いた。
山田秀三北海道の地名」草風館 p.324 より引用)

いやー、いつもの孫引きで申し訳ありません。どちらも原典を確認することもできるのですが、引用のチェーンを把握しておくのも悪く無いと思いまして。山田さんは yu-to で「温泉・沼」の意であるとしたようですね。ここまで大枠では解釈に違いは無さそうです。

一方で、山田さんの旧著「北海道の川の名」では、次のように記してありました。

永田氏は、Yu-un-do(湯・ある・沼)と詳しい形で書いたが、土地のアイヌの発音として Yu-dō(湯・沼)の方も附記して置いてくれた。もちろんそれで通用する。
山田秀三「北海道の川の名」モレウ・ライブラリー p.139 より引用)

はい。これは良いですよね。図らずも指摘がかぶってしまいましたが……。

あるいは I-un-do(それが・ある、はいる・沼)であったかも知れない。
山田秀三「北海道の川の名」モレウ・ライブラリー p.139 より引用)

これは更科さんと同様に「温泉」の存在を疑問視しての試案だったかもしれません。面白いのは後の「北海道の地名」にはこの説を入れなかったことで、あるいは「東蝦夷日誌」にも温泉の伝承があったことが理由なのかもしれません。

ペンケオラップ川

penke-{o-orak-pet}???
川上・{河口・崩れている・川}
(??? = 典拠なし、類型未確認)

湧洞川の西支流の名前です。マイナーすぎたか、手元のネタ本には情報が見当たりません。唯一見つかったのが「東西蝦夷山川地理取調図」の「ヲヽラツフ」という記載です。

「ヲラツフ」であれば o-rap(-pet) あたりではないかという想像も成り立つのですが、「ヲヽ」であれば話が変わってきます。o-orak-pet で「河口・崩れている・川」とは考えられないでしょうか。「ペンケ」は「川上の」という意味ですから、penke-{o-orak-pet} であれば「川上・{河口・崩れている・川}」ということになりますね。

……もう終わりなのかって? はい。もう終わりです(汗)。

ニベシベツ川

nipes-pet
シナノキの皮・川
(? = 典拠未確認、類型多数)

ペンケオラップ川の北側を流れる湧洞川の西支流の名前です。この川も殆ど情報を見つけられなかったのですが、類型の川が道内のあちこちにあるようでした。nipes-pet で「シナノキの皮・川」となるようです。

元々は、nipes-us-pet で「シナノキの皮・多くある・川」か、あるいは nipes-kep-us-pet で「シナノキの皮・剥ぐ・いつもする・川」あたりだったのかも知れませんね。何らかの動詞が省略されたのだと思います。

……え、もう終わりなのかって? は(ry

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