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アイヌ語地名の傾向と対策 (391) 「カイカウニ沢川・イナエップ沢川・カツケン沢川」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院地理院地図から配信されたものである)

イカウニ沢川

{kay-kay}-us-i???
{折って折って}・いつもする・もの(川)
(??? = 典拠なし、類型未確認)

旧・穂別町の「仁和上」から「仁和大橋」を渡った先で鵡川に合流する西支流の名前です。どことなくハワイっぽい地名ですが、とりあえず永田地名解を見てみましょうか。

Kaikauni, or kaye kaure-i   カイカウニ   破レ脆キ處 ?

なんと、お得意の「?」だけでは飽き足らず、ついに or まで出てきてしまいました(汗)。

ちょっと良くわからないので、戊午日誌「東部武加和誌」も見ておきましょうか。

過て
     カイカウリ
左り平地に有。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 中」北海道出版企画センター p.535 より引用)

はい。なお意味はちょいと後に記してありました。

其名義は往昔此処に大木が有りて、其木え雷が落て木を倒せしと云事のよし也。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 中」北海道出版企画センター p.535 より引用)

いやー、どうにも訳がわかりません(汗)。kay は「折れる」あるいは「背負う」と言った意味があるのですが、「雷」を伺わせる意味は見当たらないようです。ちなみに kaw-kaw で「霰(あられ)」または「雹(ひょう)」という意味があるようなので、もしかしたらその辺との混同があったのでしょうか。

永田地名解の kaye kaure-i という解のほうが、まだ意味合いを考えやすそうですね。kaye は「折る」で kaure-i は「乾いている・もの」となります。……やはりなんか意味不明ですね。

{kay-kay}-us-i あたりであれば、「{折って折って}・いつもする・もの(川)」、すなわち「いつも薪を切るところ」と考えられなくも無いのですが、先人の聞き取りの時にこのあたりではインフォーマントに恵まれなかったのか、あるいは現代のアイヌ語の辞書に無い語彙(古いアイヌ語?)が使われていたのか……。今日のところはちょっとお手上げです。

イカニ沢川

ちなみに、「仁和上」の集落のあたりで東から鵡川に注ぐ支流に「カイカニ沢川」という川があります。東西蝦夷山川地理取調図では「ヌツハヲマナイ」、戊午日誌では「ヌツパヲマ」となっている川のことと思われますが、現在は何故か「カイカウリ」そっくりの名前になっちゃってますね。

戦前の地図を見ると、現在の「仁和上」集落のところに「カイカニ」と書いてあるので、「カイカウリ」の近くの集落が「カイカニ」となり、「カイカニ」を流れる川の名前(ヌツハヲマナイ)が「カイカニ沢川」になっちゃったとか、その辺でしょうかね……。


「ヌツハヲマナイ」は nupka-oma-nay で「野原・そこになる・沢」あたりかなぁと思います。

イナエップ沢川

inaw-us-i?
木幣・ある・ところ
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)

現在の地形図を見ると、むかわ町仁和上から道道 74 号線(鵡川の東側を通っている)で穂別和泉に向かう途中に「イナエップ橋」という橋が架けられています。イナエップ橋で越えているのが「イナエップ沢川」で、その支流には「イオニシブ沢川」まであります。

東西蝦夷山川地理取調図には、鵡川の西側に「イナユウ」という川?の存在が記されています。一方、現在の「イナエップ沢川」に相当する位置には「ヒラトル」と記されているようです。

戦前の地図では、鉄道(国鉄富内線)が通っていた側に集落があり、「イナエップ」と記されています。鵡川の西側の「イナユウ」が「イナエップ」の元になったと考えて良さそうな感じでしょうか。

戊午日誌「東部武加和誌」には、次のように記されていました。

また過て
     イナエフ
右の方に在相応の川也。其名義は昔しより何の故にか、此村の川端えイナホを立しによって号しとかや。イナホウシの転じたるよし也。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 中」北海道出版企画センター p.537 より引用)

あ、なーんだ。「イナユウ」は「イナエフ」の誤記だったのかもしれませんね。「イナホ」は稲穂ではなく inaw のことですよね。ということで、元々は inaw-us-i木幣・ある・ところ」だったと考えて良さそうです。

もっとも、inaw-us-i が「イナエフ」(イナエプ?)になるのは少々謎なのですが、こればかりはもう少しヒントが欲しいところです。

カツケン沢川

(? = 典拠あり、類型未確認)

鵡川の東側を通っている道道 74 号を北に向かうと、穂別和泉を過ぎたあたりで山と川に挟まれた一角を通ります。「カツケン沢川」はちょうどこのあたりで鵡川に注ぐ支流の名前です。

カツケンサンバ」とは異なります。


いや、それくらいわかりますよね(汗)。

その語感から、てっきり和名(人名)由来かと思っていたのですが、なんと戊午日誌に次のように記されていました。

またしばし過て
     カツケン
右の方相応の流れ也。其名義は川烏(かわがらす)の巣有に依て号る也。黒くして其大さは鳩計のもの也。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 中」北海道出版企画センター p.540-541 より引用)

ふむふむ。ということで「カワガラス」を知里さんの「動物編」で探してみたところ……

かわがらす科
Cinclidae
§322. カワガラス: キタカワガラス
( 1 ) kátken(かッケン)[<?] *1 セ 11 神 78

あっさり見つかりました。いやいや、これは助かりますね。「カツケン沢川」は katken で「カワガラス」という意味だ、として良さそうです。

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*1:ホロベツ; シラオイ; サル; シズナイ