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アイヌ語地名の傾向と対策 (409) 「蚊柱岬・磯谷岬・美ノ歌」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院地理院地図から配信されたものである)

蚊柱岬(かわしら──)

kapar-shirar
平らな・岩
(典拠あり、類型あり)

北国岬(幌内)の北にある岬の名前ですが、「北海道測量舎五万分一地形図」を見た限りでは岬の南に同名の集落もあったようです(蚊柱)。正確な読みが不明なのですが、地形図には「わしら」とルビが振られていたので、本項では「かわしら──」としておきました(間違いでしたらご一報下さい)。

西蝦夷日誌には次のように記されていました。

沙濱を行、カハシラ(岩岬)、マト石(岩)、
松浦武四郎・著、吉田常吉・編「新版 蝦夷日誌(下)時事通信社 p.22 より引用)

なるほど。これだと確かに「かわしら──」と読めてしまいますね。また、「東西蝦夷山川地理取調図」には「カワルシラリ」とありました。「パ」と「ワ」の認識に揺れがあったような感じですね。

永田地名解には次のようにありました。

Kapara shirara   カパラ シララ   暗礁

はい。現在の読みは難解でしたが、その由来するところは極めて明解だったのでした。kapar-shirar で「平らな・岩」だと考えて良さそうです。「蚊柱」という当て字はなかなか傑作ですが、道南を中心にいくつか存在するようですね。

フンベ泊

せっかくなので、ちょいとオマケを。北国岬(幌内)と蚊柱岬の間、道道の「蚊柱大橋」から見て北西に位置する場所の地名です。現在の地形図には記されていないので、既に失われた地名かもしれません。

意味自体は簡単で、humpe-tomari で「クジラ・泊地」だと考えられます。あるいは humpe-oma-tomari で「クジラ・そこにいる・泊地」で、いつしか oma が略された、といったところかもしれません。

磯谷岬(いそや──)

iso-ya
水中の波かぶり岩・岸
(典拠あり、類型あり)

蚊柱岬の北北東にある岬の名前です。これも道内各所に見られる地名ですが、iso-ya で「水中の波かぶり岩・岸」と考えるべきなのでしょうね。

え、もう終わりなのかって? はい。もう終わりです(汗)。

窓岩(まどいわ)

本編が短いから……という訳でもあるような無いようなですが、またしてもちょいとオマケを。

古い地形図(北海道測量舎五万分一地形図)には、磯谷岬と美ノ歌の間に「窓岩」と記されていました。字からは和名のように思えたのですが、東西蝦夷山川地理取調図に「マトイシ」とあり、西蝦夷日誌にも「マト石」と記されています。

知里さんの「地名アイヌ語小辞典」に、次のような項がありました。

má-tu まート゚ 【ニイトイ】波打際の屈曲した所; うらわ(浦曲)。
知里真志保地名アイヌ語小辞典」北海道出版企画センター p.58 より引用)

語彙の採集地が樺太なのが少し気になりますが、{ma-tu}-us-i で「波打際の屈曲した所・そうである・もの」と読み解けそうな気がします。

美ノ歌(みのうた)

mo-no-ota?
静か・十分に・砂浜
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)

磯谷岬とナカハマ岬の間の地名です。地形図を見ると建物がひとつだけあるように見えるのですが(番屋ですかね?)、航空写真を見た感じではそれらしきものは確認できませんでした。

道道 39 号「奥尻島線」は幌内から勝澗山に向かってしまうので、蚊柱岬、磯谷岬そして美ノ歌のあたりには道路らしき道路は通っていません。


「美ノ歌」という地名は東西蝦夷山川地理取調図や西蝦夷日誌などには記載がありませんが、古い地形図には「ミノウタ」と記録されていることから、それなりに古い地名であるようにも見受けられます。

地名解ですが、mo-no-ota で「静か・十分に・砂浜」あたりでしょうか。砂浜の東に「ナカハマ岬」があるので、それなりに波風が防がれていたのではないかな、と考えてみたのですが……。

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