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アイヌ語地名の傾向と対策 (415) 「蘭越・ニトヌプリ・ペンケ目国内川」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院地理院地図から配信されたものである)

蘭越(らんこし)

ranko-us-i
桂(の木)・多くある・ところ
ranko-us-nay
桂(の木)・多くある・沢
(典拠あり、類型あり)

ニセコ町の西隣りの町の名前です。JR 函館本線の「蘭越駅」もあります。ということで、今回も「北海道駅名の起源」から。

  蘭 越(らんこし)
所在地 (後志国)磯谷郡蘭越町
開 駅 明治37年10月15日(北海道鉄道)
起 源 アイヌ語の「ランクシ」がなまったもので、ランクシは「ランコ・ウシ」(カツラの多い所)の意。
(「北海道駅名の起源(昭和48年版)」日本国有鉄道北海道総局 p.29 より引用)

はい。ranko-us-i で「桂(の木)・多くある・ところ」と考えて良さそうですね。

この「蘭越」という地名の興味深いところは、もともとは蘭越駅近くの小さな川だったものが、たまたま近くに駅ができたおかげで駅名になり、気がつけば町名になってしまったという点でしょうか。

ですので、意外と古い記録には「ランコシ」の文字を目にすることがそれほど多くありません。なお、明治期の地図には「ランコシナイ」と記されていましたので、元々は ranko-us-nay で「桂(の木)・多くある・沢」だったのかもしれません。

ニトヌプリ

nitum-nupuri
森・山
nitum-un-nupuri
森・ある・山
(典拠あり、類型あり)

ニセコアンヌプリの西に位置する山の名前です。山頂は倶知安町蘭越町の境界上にあります。今回は久しぶりに「北海道地名誌」を見てみましょう。

 ニトヌプリ山 1,083.0 メートル 倶知安町との境界近くの山。ニトはアイヌ語ではなく, 兎が 2 匹飛びだしたのを見たので,2 兎ヌプリとつけたという。
NHK 北海道本部・編「北海道地名誌」北海教育評論社 p.177 より引用)

……ほんまかいな(汗)。

軽く脱力したところで、我らが「角川──」(略──)を見てみましょう。

 にとぬぷり ニトヌプリ
後志(しりべし)地方蘭越町倶知安(くっちゃん)町・共和町の境界にある山。標高1,083m。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.1106 より引用)

ふむふむ。もちろん続きがあります。

山名は「アイヌ語小辞典」にはニドム・ヌプリとあり,森のある山の意という。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.1106 より引用)

ほうほう。これで「働かない山」などと言われたらどうしようかと思いましたが、思いの外マトモっぽい解で安心しました。nitum-nupuri で「森・山」でしょうか。あるいは nitum-un-nupuri で「森・ある・山」だったのかもしれませんね。

ペンケ目国内川(ペンケめくんない──)

penke-mak-un-nay?
川上の・山奥に・入る・沢
penke-mek?-un-nay?
川上の・尾根の下?・そこに入る・川
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)

ニセコ連峰」の東山(ニセコ火山群)と西山(雷電火山群)は、「白樺山」と「前目国内岳」の間の「新見峠」で区切られています。新見峠の南側には「新見温泉」というところがあり、新見温泉の東側を「ペンケ目国内川」が流れています。ちなみに「新見温泉」の名前の由来は、温泉を発見した新見直太郎さんに由来するのだとか。

では、今回は永田地名解を見てみましょうか。

Penke mekun nai   ペンケ メクン ナイ   上ノ暗川 「メクン」ハ「暗キ」ノ義

ふーむ。mekun に「暗い」なんて意味があったかなぁ、という疑問が出てくるのですが……。山田秀三さんの「北海道の地名」には、次のように記されていました。

メクンという言葉を他で見たことがないので判断がつかない。松浦図と西蝦夷日誌では,ハンケメクシ,ヘンケメクシである。これから見ると mek-un あるいは mek-ush だったらしいが,そのメク(mek)の意味が分からないし,今までのところ似た言葉を当てる自信もない。後人の研究に待ちたい。
山田秀三北海道の地名」草風館 p.461 より引用)

あー、やはりそうなりますよねぇ。

一方で、更科源蔵さんの「アイヌ語地名解」には次のようにありました。

 目国内岳(めくんないだけ)
 野束川水源の山。目国内の語源はマㇰ・ウン・ナイで、山奥にある川という意味である。

あーなるほど。mak-un-nay で「山奥に・入る・沢」と解釈したのですね。これは割と妥当な解に思えます。

更科さんの解に概ね異論は無いのですが、知里さんの小辞典を見ていると mek-ka という語彙が見つかりました。これは「物の背すじ」を意味して、転じて「山の尾根」と言った風にも使われたようです。mek-ka は「mek の上」と読み解けますから、mek は「尾根の下」と考えても良さそうな気がします。

地形図を見ていると、「ペンケ目国内川」と「パンケ目国内川」はどちらも深く掘れた谷底を流れています。そのことから、永田地名解にあるとおりの mek-un-nay で「尾根の下・そこに入る・川」とも読めたりしないかな? と考えてみました。

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