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アイヌ語地名の傾向と対策 (537) 「シイシカリベツ川・ヌプリパクショベツ川・ニペソツシントシベツ川・イシカリベツ川」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院地理院地図から配信されたものである)

シイシカリベツ川

si-{sikari-pet}
主たる・{然別川}
(典拠あり、類型あり)

「鹿追自然ランド」の北側あたりで然別川に合流する川の名前です。もっとも本来は「シイシカリベツ川」が然別川の「本流」で、現在「然別川」と呼ばれているかつての「トウマベツ川」が支流という扱いでした。

山田秀三さんの「北海道の地名」には次のように記されていました。

シイシカリベツ
 然別川のトウマベツ合流点から上をこの名でいう。
山田秀三北海道の地名」草風館 p.318 より引用)

山田秀三さんが「北海道の地名」を著した頃は、まだ「トウマベツ」が現役だったことが良くわかります。

シー・シカリペッ(shi-shikaripet ほんとうの・然別川→然別川源流)の意。松浦図ではシノマンシカリヘツ「shinoman-shikaripet ほんとうに(奥に)行っている・然別川」の形で書かれていた。
山田秀三「北海道の地名」草風館 p.318 より引用)

はい。si-{sikari-pet} で「主たる・{然別川}」ということになりますね。「然別川」自体は sikari-pet で「まわる・川」と考えるのが自然でしょうか。鹿追町の西寄りをグルっと回るルートを取っているところから「まわる川」と称されたのだろうなぁと思わせます。

「然別川」については、アイヌ語地名の傾向と対策 (206) 「シブサラビバウシ川・鎮錬・然別」もあわせてどうぞ。

ヌプリパクショベツ川

nupuri-pa-kus-pet
山・崎・通行する・川
(典拠あり、類型あり)

シイシカリベツ川の東支流です。シイシカリベツ川の脇を道道 1088 号「然別峡線」が通っていますが、その「九線橋」の下を「ヌプリパクショベツ川」が流れています。

これは、nupuri-pa-kus-pet で「山・崎・通行する・川」なのでしょうね。実際にヌプリパクショベツ川を遡ってゆくと、北ペトウトル山と南ペトウトル山の間の鞍部に差し掛かります。シイシカリベツ川筋からヤンベツ川筋に向かう際の通行路として使える川だったのだろうと思われます。

ニペソツシントシベツ川

{ni-pes-ot}-ru-turasi-pet
{ニペソツ川}・道・それに沿ってのぼる・川
(典拠あり、類型あり)

シイシカリベツ川の西支流です。ニペソツ山と言えば上士幌町新得町の境に聳える標高 2,013 メートルの山……だと思っていたのですが、よーく地図を眺めてみると、ニペソツ山の西側から「ニペソツ川」が流れていました。

そして、昔の地形図を見てみると、「ニペソツシントシベツ川」のところに「ニペソツルトラシペツ」とありました。どうやら {ni-pes-ot}-ru-turasi-pet と考えられそうですね。これだと「{ニペソツ川}・道・それに沿ってのぼる・川」という意味になります。ニペソツ川方面に向かう峠道の川、という意味でそう呼ばれたのでしょうね。

それはそうと、「ルトラシベツ」が「シントシベツ」に化けたのには焦ってしまいます。たまたま昔の地形図が見られたから良かったのものの、そうでなければ「シントシベツ」が「ルトラシベツ」の誤りだとはなかなか気づけそうにありません(おそらくトンチンカンな試案を出すことになっていたんだろうなぁ、と思います)。ヒヤッとした、というのが正直なところです。

イシカリベツ川

e-sikari-pet??
頭(水源)・まわる・川
(?? = 典拠なし、類型あり)

シイシカリベツ川の西支流の名前……ですが、支流とは言いつつ流長はシイシカリベツ川と大差ないレベルに見えます。然別川の数ある源流のひとつ、という表現のほうが的確かもしれません。

「然別」は sikari-pet で「まわる・川」だと考えられますが、イシカリベツ川を単独で見てみても、弓なりに曲がっているように見えます。イシカリベツ川の自体の水源がウペペサンケ山の西南西のあたりだとすると、「水源が回っている川」とも言えそうですね。

ということで、e-sikari-pet で「頭(水源)・まわる・川」あたりなのかなぁ、と考えてみました。大体そんなところでは無いかと思うのですが。

あ、いまさらですが、「石狩川」とはなんのつながりもありません。ニペソツ山の北には「石狩岳」や「ユニ石狩岳」があって、その北側が「石狩川」の水源地ということになりますが、少なくとも 15 km ほどは離れています。

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