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アイヌ語地名の傾向と対策 (751) 「カバユサンナイ川・壮珠内川・コノエオサレベツ川」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

カバユサンナイ川

kama-{e-san}-nay?
平岩・{岬}・川

 

(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)

長流川の西支流で、伊達市(旧・大滝村)北湯沢温泉町を流れています。久々に色々と疑問のありそうな川の登場です……。実はこの川、OpenStreetMap では「壮珠内川」という名前になってしまっているのですが、単純に OSM の間違い、というわけでも無さそうで……


この川なんですが、


なんと橋の欄干には「壮珠内川」の文字が。どうやらこの川は「壮珠内川」と認識されていた時期がありそうな感じです。

たとえば、伊達市の「土砂災害ハザードマップ」を見ると、今でも「壮珠内川」が北湯沢温泉町を流れていることになっています。


川名の案内板を設置する場所を間違えたのかとも思ったのですが、これだけ堂々とした間違いが長年放置されるとも考えづらいので、さすがにそれは無いのでしょうね。

実際に大正時代の「陸軍図」を見てみると、北湯沢駅の近く、この川の流域に「カバユサンナイ」と描かれているので、やはりこの川が「カバユサンナイ」だったと考えざるを得ません。となると川の銘板に描く文字を間違えたということになるのですが、橋を施工する業者が川の名前を間違えるということがあるかと言われると……


サイズが同じで付け間違えた、という可能性があったりするのでしょうか(汗)。

「カバユサンナイ」の地名解

ということで、所在地についての謎が少しだけ残った「カバユサンナイ」ですが、似た名前の川が永田地名解に記録されていました。

Kama esan nai  カマ エサン ナイ  扁磐ヲ下ル川

ふむふむ。kama-{e-san}-nay で「平岩・{頭・浜へ出ている}・川」と解釈できそうでしょうか。e-san を逐語的に「頭・浜へ出ている」としましたが、これは「岬」と言い換えたほうが分かりやすくなります。「平岩・{岬}・川」のほうがより適切かもしれません。

永田方正の言うように e-san を「そこから・浜へ降りる」と解釈することも可能ですが、地形図を見ると「平らな岩岬」があるように見えるので……。

壮珠内川(そうしゅない──?)

so-us-nay?
滝・ついている・川

 

(? = 典拠未確認、類型多数)

「壮珠内川」は伊達市(旧・大滝村)のどこかに存在する筈ですが、正確な所在地は良くわかりません(汗)。国道 453 号の「村雨橋」には「カバユサンナイ川」という銘板があることから、この川が実は「壮珠内川」だったらわかりやすいのですが……

(この背景地図等データは、国土地理院地理院地図から配信されたものである)

この川には「カバユサンナイ川」にあったような「川の名前の案内板」は見当たらず、また銘板は「カバユサンナイ川」になっているので参考にならないのですが、堤防脇に「砂防指定地」の案内板がありました。


案内板には「砂防指定地 ○ ○ 川」と記されているように見えます。ポイントとしては、川名が漢字で 2 文字であるっぽいことで、つまり「カバユサンナイ川」でも「壮珠内川」でも無さそうだ、ということです。

「砂防指定地」情報から読み解く「壮珠内川」

ということで、「砂防指定地」という情報から探ってみたところ、伊達市が「土砂災害ハザードマップ」という Web サイトを公開していました。「土石流危険渓流」の情報として、「村雨橋」の下を流れる川が「カバユサンナイ川」となっているという間違いがそのままになっていますが、お目当ての「壮珠内川」の情報を得ることができました。どうやらこの川が「壮珠内川」だったようです。

(この背景地図等データは、国土地理院地理院地図から配信されたものである)

この橋は「優徳橋」という名前のようですが、この橋の欄干には……


長流川支流」とありました(笑)。そして、ここまで OpenStreetMap は「伊達市が考える川の名前」が反映されていましたが、この「壮珠内川」と思しき「長流川支流」には、なんと「社珠内川」と言う名前が。何なんでしょうこのパチモンっぽさ全開のネーミングは……(汗)。

この「社珠内川」ですが、どうやら「国土数値情報」に存在するみたいですね(現在も残っているかどうかは不明)。

ということで

「地名の由来」はどこへやら、川の位置を特定するのに時間を費やしてしまっていますが、地名を正しく理解するには正しい位置の認識からということで……(言い訳)。「壮珠内川」はおそらく so-us-nay で、「滝・ついている・川」と考えて良いかと思います(え、それだけ?)。

コノエオサレベツ川

ko-henoye-{o-sar-pet}
そこへ向かって・曲がる・{長流川}

 

(典拠あり、類型あり)

長流川の東支流に「三階滝川」という川があるのですが、「コノエオサレベツ川」は「三階滝」のすぐ近くで三階滝川に合流する南支流の名前です。地理院地図には「コノエオサレベツ川」とありますが、国土数値情報では「コノヘオサレベツ川」となっています。

明治時代の地形図を見ると、現在の「三階滝川」のところに「シラウオイゴエノオサレペツ」という名前の川が描かれています。「シラウオイ」は「白老」のことですから、「白老越えの長流川」と読めそうですが……。

ところが、山田秀三さんの「北海道の地名」には、次のように記されていました。

 シラウオイコヘノエオサルペッ(shirauoi-ko-henoye-osarpet 白老・に向かって・曲がっている・長流川)で,その水源から山を越えると白老川の水源なのであった。
山田秀三北海道の地名」草風館 p.408 より引用)

シラウオイゴエノオサレペツ」ではなく「シラウオイコヘノヘオサルペッ」だったのですね。「越えの」ではなく ko-henoye だったみたいです。{siraw-o-i}-ko-henoye-{o-sar-pet} で「{白老}・そこへ向かって・曲がる・{長流川}」と読み解けそうです。

現在はこの川の南支流がコノヘオサレベツ川と呼ばれる。僅かに旧名を訛って残した名であるらしい。
山田秀三「北海道の地名」草風館 p.408 より引用)

ふむふむ。ko-henoye-{o-sar-pet} で「そこへ向かって・曲がる・{長流川}」と解釈できそうですね。どこへ向かって曲がるのかは謎ですが……。

(この背景地図等データは、国土地理院地理院地図から配信されたものである)

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