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アイヌ語地名の傾向と対策 (830) 「シャクネツナイ川・オニオマナイ川」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

シャクネツナイ川

{sak-ipe}-ot-nay
{鱒}・多くいる・川
(典拠あり、類型あり)

枝幸町風烈布には「フーレップ川」が流れていますが、その 1.5 km ほど北西を「シャクネツナイ川」が流れています。

「東西蝦夷山川地理取調図」には「サキヘヲツナイ」という地名が描かれています。「──ナイ」という名前からして川と考えるのが自然でしょうか。

「再航蝦夷日誌」には「シヤケベヲツナイ」という名前の「小川」が記録されていました。「竹四郎廻浦日記」では「サケヘヲツナイ」とあります。

永田地名解にも次のように記載がありました。

Shakibe ot nai  シャキベ オッ ナイ  鱒居ル川「シャキポッナイ」ト云フハ急言ナリ

どうやら {sak-ipe}-ot-nay で「{鱒}・多くいる・川」と考えて良さそうですね。

明治時代の地形図には「シヤリポッナイ」と描かれているものと、「シュリポッナイ」と描かれているものがありました。「リ」が「ク」に、そして「ポ」が「ネ」に化けると「シャクネツナイ」の出来上がり……ということになりますね。

2021/5 追記
近くのバス停の名前は「先沖内」で、これは「さきおきない」と読むのだそうです。

オニオマナイ川

pon-o-ya(-us-suma)-nay??
小さな・尻・陸(・ついている・岩)・川
(?? = 典拠あるが疑問点あり、類型未確認)

「シャクネツナイ川」の 0.6 km ほど北西を流れる川の名前です。「東西蝦夷山川地理取調図」には「ヲニルロヲマフ」「ヲヤヲシユマ」「ヲ子トナイ」という川が描かれていて、順序を考慮すると「ヲ子トナイ」が最も「オニオマナイ」に近いと考えられます。

「再航蝦夷日誌」

「再航蝦夷日誌」には次のように記されていました。

     ヲチヽウンヘ 幷て
     ヲンルロヲマフ 幷て
     ヲネトナイ 小川有。上の方ニ沼有るよし也。幷て
     シヤケベヲツナイ 小川有。
松浦武四郎・著 吉田武三・校註「三航蝦夷日誌 下巻吉川弘文館 p.134 より引用)

「竹四郎廻浦日記」

また、「竹四郎廻浦日記」には次のように記されていました。

     ヲチウンヘ 小川
此所往昔十余軒有。近年迄五軒残りしが当時一軒もなし。
     ヲニロヽマッフ 小川
此所も昔し五軒斗。近年迄弐軒残り、当時壱軒もなし。
     ホンシロヽマッフ
     ヘシトマヽナイ 此所より山道懸り、
     ヲン子ヲヤウシユマ 海岸大岩石多く難所也。
     ホンヲヤウシユマ 大岩有。
     サケヘヲツナイ
松浦武四郎・著 高倉新一郎・解読「竹四郎廻浦日記 下」北海道出版企画センター p.328 より引用)

現在の川名

現在、「乙忠部川」と「シャクネツナイ川」の間には、以下の川が確認できます。

     乙忠部川
     オニセップ川
     ペセトコマナイ川
     (名称不明の川 ①)
     (名称不明の川 ②)
     オニオマナイ川
     シャクネツナイ川

一覧表

一覧表にすると、次のようになるでしょうか。

東西蝦夷山川地理取調図 竹四郎廻浦日記 永田地名解 現在名
ヲチヽウベ ヲチウンヘ オ キト゚ ウンペッ 乙忠部川
ヲニルロヲマフ ヲニロヽマッフ オニルロマㇷ゚ オニセップ川
- ホンシロヽマッフ - -
ヘセトマイ ヘシトマヽナイ ペシュ エトコ オマ ナイ ペセトコマナイ川
ヲヤヲシユマ ヲン子ヲヤウシユマ オヤオ シュマ (名称不明の川)
ヲ子トナイ ホンヲヤウシユマ オネッ ナイ オニオマナイ川
サキヘヲツナイ サケヘヲツナイ シャキベ オッ ナイ シャクネツナイ川

「ヲニルロヲマフ」か「ヲヤウシユマ」か

二通りの可能性を考えてみました。一つは「ヲニルロヲマフ」が位置を取り違えられて「オニオマナイ」に化けたというもので、もう一つは「ヲヤウシユマ」が「オニオマナイ」に化けたというものです。

前者については、「ヲニルロヲマフ」相当の位置に現在も「オニセップ川」があるため、単純に位置を取り違えたと考えるのは、やや無理があるように思えます。後者は「ヲヤウシユマ」をどう誤記すれば「オニオマナイ」に化けるのか……という問題が残ります。

地名解の検討

永田地名解には次のように記されていました。

Oya-o shuma  オヤオ シュマ  海中ニ在ル石 「オョシュマ」ト云フハ急言ナリ
(永田方正「北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.442 より引用)

「ヲヤウシユマ」は o-ya-us-suma で「尻・陸・ついている・岩」あたりでしょうか。似たような岩?が複数あり、大きな方を onne-(年長の)を冠して呼ぶようになり、小さな方は pon-(小さな)を冠したと考えられます。

また、本来「ポンヲヤウシユマ」は岩の名前と考えられるので、その近くを流れる川は pon-o-ya-us-suma-nay で「小さな・尻・陸・ついている・岩・川」と呼ばれたかもしれません。

pon-o-ya-us-suma-nay-us-suma が略されて pon-o-ya-nay となり、「ポンオヤナイ」の「ポ」が「オ」に、「ン」が「ニ」に、「ヤ」が「マ」に化けると「オニオマナイ」の出来上がり……と考えてみたのですが……。

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