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パンケカヨナイ川
徳志別川を中流部から上流部に遡り、道道 120 号「美深中頓別線」の「天の川トンネル」(旧・美幸線のトンネルを改築したもの)のあたりから更に 1.2 km ほど遡ったところで徳志別川に合流する南支流(東支流)の名前です。
徳志別川の中流部には「オフンタルマナイ川」や「タチカラウシナイ川」などの川が存在しますが、いずれも松浦武四郎の記録には出てこない名前です。
ただ、この「パンケカヨナイ川」については、幸いなことに明治時代の地形図に「パンケエカヨナイ」と描かれていました。なるほど、「エ」が抜け落ちたんですね。
音からは panke-e-kay-nay で「川下側の・頭・折れている・川」あたりでしょうか。ただこれだと「パンケエカイナイ」になってしまうので、あるいは強勢の -o が間に入ったのかもしれません。
「頭が折れている」をどう解釈するかですが、知里さんの「──小辞典」には次のように記されていました。
e-kay-nupuri エかィヌプリ 【チカブミ】頂上が平になっている山。[頭が・折れている・山]
そう言われてみると、確かに「パンケカヨナイ川」の水源も……
妙にフラットですね。また、上流側には「ペンケカヨナイ川」もあるのですが、その水源も……
水源と言うか鞍部なんですが、鞍部にしてはかなりフラットな形状です。
イソシケプンナイ川
徳志別川の南支流(東支流)で、「パンケカヨナイ川」の西側(上流側)を流れています。この川も「東西蝦夷山川地理取調図」などには記載がありませんが、明治時代の地形図には「イソシケプンナイ」と描かれていました。
「イソシケプンナイ」を素直に解釈すると e-soske-p-un-nay で「頭・剥げている・もの・そこに入る・川」あたりでしょうか。「頭が剥げている」というのは酷い言い様ですが、水源部にがけ崩れがあった、とも考えられそうです。
全く違う読み方をすれば、iso-sike-pu-un-nay で「獲物・背負う・倉・ある・川」と読めなくも無いかも知れません。「獲物・背負う・倉」というのは変な感じもしますが、sike を「背負う」ではなく「荷物」と考えれば「獲物・荷物・倉」となり、極地探検の際の食料貯蔵庫のような雰囲気が出てくるかもしれません。
また、「エゾフクロウ」を意味する iso-sanke-chikap という語があるそうです。iso-sanke-kamuy と呼ぶ場合もあるとかで、「獲物・出す・鳥(神)」と解釈できるとのこと。
中川先生の「アイヌ語千歳方言辞典」には次のように記されていました。
イソサンケチカㇷ゚ isosankecikap 【名】 エゾフクロウ;ペウレㇷ゚ チコイキ! pewrep ci=koyki!「子グマを捕ったぞ!」と鳴き、近くにクマがいることを人間に教えてくれる。それを無視して山を下りようとすると、どこまでも追いかけてきて、「戻って捕れ」と鳴き続けるという。ユㇰチカㇷ゚ yukcikap というのも同じ鳥だと言う。<iso「獲物」sanke「~を下ろす」kamuy「カムイ」。
この iso-sanke-chikap の -sanke を略したら「イソチカプ」になるので、{iso(-sanke)-chikap}-un-nay で「エゾフクロウ・いる・川」なのだ……というストーリーも、「はげ頭の入り口」よりは夢があって面白いかなぁ、などと(ぉぃ)。
クサウンナイ川
徳志別川の支流のうち、地理院地図に名前のあるものとしては最も上流部を流れる川の名前です。徳志別川の南支流で、ペンケカヨナイ川の西隣を流れています。
明治時代の地形図でも「クサウンナイ」という名前で描かれていました。「北海道地名誌」によると、次のように解釈できるとのことですが……
クサウンナイ川 徳志別川上流右小川。舟の渡し場ある川の意。
確かにそう解釈できるのは理解できるのですが、これだけの山の中、舟で渡るような場所では無いと思われるのですが……。
kus-an-nay で「向こう側・にある・川」と読めるかもしれませんし、あるいは kus-un-nay で「向こう側・そこに入る・川」と読めそうな気もしますが、いずれも「クサンナイ」あるいは「クシュンナイ」となりそうなところが弱い感じがします。
となると kucha-un-nay で「山小屋・そこにある・川」あたりが最も自然でしょうか……。
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