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アイヌ語地名の傾向と対策 (839) 「ハンカケ川・ケモマナイ川・モウツ川」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

ハンカケ川

panke-{supun-po}-us-i???
川下側・{小さなウグイ}・多くいる・ところ
(??? = アイヌ語に由来するかどうか要精査)

北見幌別川の南支流に「七線川」という川があるのですが、「ハンカケ川」は「七線川」の西支流に当たります。「東西蝦夷山川地理取調図」にはそれらしき川が見当たらず、また「竹四郎廻浦日記」などにも記録が見当たりません。

結論を書いてしまうと「皆目不明」なのですが、明治時代の地形図を眺めてみると、*近い位置* に「ウムムセナイ」という川が描かれていて、その東支流として「ペンケシュプンポシ」と「パンケシュプンポシ」と読めそうな川が描かれていました(東支流が存在するという点から、「ウムムセナイ」は現在の「山ノ川」である可能性が高そうに思えます)。

この「ペンケシュプンポシ」と「パンケシュプンポシ」ですが、とても不思議なことに「川上側の」を意味する「ペンケ──」のほうが(ウムムセナイの)川下側に位置しています。「ウムムセナイ」の東には「チライクルナイ」という川が描かれていて、位置的にはこれが現在の「七線川」に近いと思われるのですが、もしかしたら「パンケシュプンポシ」は「チライクルナイ」の支流?だったのかもしれません。

「パンケ──」と「ペンケ──」が異なる川の支流として存在するというのは、あまり記憶に無いのですが……。

ようやく本題ですが、この「ハンカケ川」は「パンケシュプンポシ」の成れの果てである可能性がありそうな感じです。panke-{supun-po}-us-i であれば「川下側・{小さなウグイ}・多くいる・ところ」と読めそうなのですが……。

ケモマナイ川

kim-oma-nay
山・そこに入る・川
(典拠あり、類型あり)

枝幸町幌別のあたりで北見幌別川に合流する北支流の名前です。水源に向かって遡ると、最終的には「パンケナイ川」の東側を流れて浜頓別町との町境近くまで行くことになります。大正時代の「陸軍図」には中流部(枝幸の市街地から見て真西のあたり)に「ケモマナイ」という地名も描かれていました。

ケコマナイ川の東隣を「ゴミノ川」という川が流れているのですが(凄いネーミング)、「ゴミノ川」の近くの道道 12 号「枝幸音威子府線」に「金駒内バス停」があります。1980 年代の土地利用図には、ケモマナイ川沿いに「金駒内」という地名が描かれていましたが、現在の地理院地図には記載がありません(小字が整理されたということでしょうか)。

「ケモマナイ川」は「ゴミノ川」よりも随分と長いのですが、残念なことに「竹四郎廻浦日記」には記載がありません。ただ「東西蝦夷山川地理取調図」には「キモヲマナイ」という名前の川が描かれていました。

また、永田地名解にも次のように記されていました。

Kem-oma nai  ケモマ ナイ  奥ニアル川

これらの記録から、「ケモマナイ川」は kim-oma-nay で「山・そこに入る・川」と考えられそうです。

モウツ川

mo-ut?
静か・脇腹
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)

枝幸町の市街地の南、道道 12 号「枝幸音威子府線」と道道 1069 号「ウエンナイ幌内保線」の間を流れる川の名前です。「東西蝦夷山川地理取調図」には「モウツ」と描かれているほか、「再航蝦夷日誌」にも「モウツ」とあり、「竹四郎廻浦日記」には「モウチ 砂浜」と記録されています。

永田地名解には次のように記されていました。

Mo ut  モ ウッ  靜ナル脇川
(永田方正「北海道蝦夷語地名解国書刊行会 p.440 より引用)

mo-ut で「静か・脇腹」と考えられそうです。ut の後ろは -nay あたりがあるのが一般的で、「モウツ川」の場合は -nay が省略された感じでしょうか(-pet の場合もありますが)。

ちょっと解せないのが、ut-nay は多くの場合、本川と同じような向きに流れながら、最終的には T 字路のような形で本川に合流する支流に使われるというところです。「モウツ川」は海に直接注いでいて、「脇腹」「肋骨」と形容すべきポイントが見当たらないように思えるのですね。

モウツ川は小規模な川ながら、上流部は山と山の間に挟まれた場所を流れています。そこから mo-utur(-oma-nay) で「小さな・間(・そこに入る・川)」と呼ばれていた……というのであれば諸手を挙げて賛成できるのですが、残念ながらそのような記録は見当たりませんでした。

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