やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
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丸瀬布(まるせっぷ)
「丸瀬布」については以前にも北海道のアイヌ語地名 (70) 「丸瀬布・若咲内・瀬戸瀬」で取り上げていますが、記事にしてから 10 年ほど経つので、改めて検討してみることにしました。
かつての町名(紋別郡丸瀬布町)で、JR 石北本線には同名の駅があるほか、旭川紋別自動車道にも同名の IC があります。湧別川の西支流である「丸瀬布川」が合流するところに市街地が形成されています。
昨日の記事でも触れましたが、「丸瀬布森林公園いこいの森」や「丸瀬布温泉」は、いずれも丸瀬布川ではなく武利川の流域にあります。「丸瀬布──」を名乗っているのは、そんなに「武利川」の「ムリ」の音を避けたかったのか……と思ったりもしますが、単に旧・丸瀬布町にあったから、かもしれません。
武利川と丸瀬布川の合流点はそれほど離れていませんが、武利川を遡ると南に向かうのに対し、丸瀬布川を遡ると西に向かうことになります。別の言い方をすれば、丸瀬布の市街地で湧別川・丸瀬布川・武利川の三川が合流する、ということになります。
「はまなす」説
丸瀬布川は、武利川よりは短いものの、湧別川の支流の中ではそこそこの規模のものです。ただ不思議なことに「東西蝦夷山川地理取調図」にはそれらしき川が見当たらないように思えます。
戊午日誌「西部由宇辺都誌」には次のように記されていました。
またこへて十丁も過
マウレセツフ
右の方相応の川、峨々たる山間に達するとかや。其川すじ玫瑰 多しと、よつて此名有るよし也。マウレは玫瑰の事也。
ただ頭註には次のようにありました。
丸瀬布川
自生のはまなすはない
マウレは「はまなす」なので誤記したものてあろう
武利川でも「テンキグサ」あるいは「ハマニンニク」と呼ばれる「海岸の砂地に生える」草が出てきましたが、本来の植生ではあり得ない植物に由来を求めるケースが続いたのは不思議な感じがしますね。
「三つの川」説
「角川日本地名大辞典」には次のように記されていたのですが……
地名の由来はアイヌ語マウレセプで,「北海道駅名の起源」では「三つの川の集まる広い所,と言われているが真意は不明」とある。
改めて「北海道駅名の起源」を確かめてみたところ……
丸瀬布(まるせっぷ)
所在地 (北見国) 紋別郡丸瀬布町
開 駅 昭和 2 年 10 月 10 日
起 源 アイヌ語の「マウレセㇷ゚」、すなわちマウレセㇷ゚川から転かしたものである。
あれれ。まるでどこかの元環境大臣のコメントみたいな内容になっちゃってますね。念のため昭和 29 年版を見てみると……
丸瀬布駅(まるせっぷ)
所在地 北見国紋別郡丸瀬布町
開 駅 昭和二年十月十日
起 源 アイヌ語「マウレセㇷ゚」から転訛したものであるが、意味は不明である。
㉕ 「マルセップ」(三つの川の集まる広い所)
あー、なるほど見えてきました。「角川──」は昭和 25 年版の「──駅名の起源」を参照したんですね。この「三つの川の集まる広い所」という解釈は昭和 29 年版でカットされているので、おそらく 4 人の編者の中から反対意見があったのでしょう。
「セㇷ゚」は「広い」か
「マウレセㇷ゚」が「丸瀬布駅」周辺のことを指したものなのか、あるいは「丸瀬布川」のことを指していたのかについては、確実なことは言えないのですが、まずは川名ありきだったのではないかと推測しています。
山田秀三さんの旧著「北海道の川の名」に、次のような記述を見かけました。
北侮道河川課の調べでは、マウレセプとは「小さい川の集まってできた広い処」の意味だと地元の伝承がある由。よく調べてみたい。
これは「マウレセㇷ゚」の「マ」(あるいは「マウ」)を mo- と考えたもの……のようですね。興味深いのは「広いところ」という解釈が共通する点で、これは -sep を「広い」と考えたということでしょう。
sep 系の川名でもっともわかりやすいのが新冠町の「節婦」で、中流部で川筋がフォークの先のように枝分かれしているのが特徴的です。この特徴は丸瀬布川にも当てはまるので、-sep は「広い」と見て良いかと思われます。そして「マウレセㇷ゚」は「丸瀬布川」の特徴から名付けられた(丸瀬布駅周辺の地形に由来するものでは無い)可能性が高くなります。
「マウ」の正体は
松浦武四郎が「ハマナスの実」だとした maw については、現地に実在しないと見られることから、やはり否定的に見るしか無さそうです。maw には「息吹」という同音異義語があるため、「ハマナス」説を否定することは比較的容易と言えそうです。
ただ、ここで問題になるのが「レ」の扱いで、これを re として「三つの」とする解釈を良く見かけます。maw-re-sep をまとめると「息吹・三つの・広い」となりますが、凄まじく意味不明になってしまいます。
maw を「風」と解釈することもできますが、「風」を意味する語としては réra を使用するほうが一般的でしょうか。réra と maw にはニュアンスに違いがあり、réra が自然現象としての「風」を指すのに対し、maw は「人為的に発生させた風」を意味するとのこと。
いくつかの辞書には「げっぷを出す」という意味の ikmawre という語が掲載されていて、田村すず子さんはこれを ik-maw-re で「(擬音)・呼気・(動詞形成)」に分解できるとしています。となると {maw-re}-sep で「{げっぷを出す}・広い」川、転じて「{息吹く}・広い」川と解釈できたりはしないでしょうか。
実際には丸瀬布川の谷に西からの風が良く流れ込んだ……と言ったところなのかと思うのですが、知里さんの言う「古い時代のアイヌ」は「川を人間同様の生物と考えていた」ため、この風を「川の息吹」と見立てたのではないか……と考えてみました。
知里さんの「河川擬人化」の考え方を厳密に解釈すると、「河口」は「尻」と捉えたほうが良いのかもしれませんが……。
オロピリカ川
遠軽町丸瀬布上丸のあたりで丸瀬布川に合流する南支流です。明治時代の地形図には「オロピリカマウレセㇷ゚」という名前の川が描かれていました。
「北海道地名誌」には次のように記されていました。
オロピリカ川 丸瀬布川の右支流。アイヌ語「オロ・ピリカ・マウレセㇷ゚」(川の中の歩きよいマウレセㇷ゚)の後略。
oro-pirka-{mawresep} で「その中・良い・{丸瀬布川}」と考えて良さそうですね。オロピリカ川の南支流である「炭山川」を遡った先には「
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