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アイヌ語地名の傾向と対策 (309) 「統太・十勝静内川・カタサルベツ川」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

日高地方の静内については、アイヌ語地名の傾向と対策 (340) 「静内・元静内」をご覧ください。
(この背景地図等データは、国土地理院地理院地図から配信されたものである)

統太(とうぶと)

to-putu
沼・口
(典拠あり、類型あり)

浦幌町南部の地名です。浦幌駅から見ると南側、新吉野駅から見ると東南東のあたりに位置します。このあたりの浦幌川は酷く蛇行していたので、東側に、直線的に南下する形の新しい浦幌川が開削されています。

統太から更に南に向かうと十勝川の河口がありますが、明治の頃は現在の「浦幌十勝川」が十勝川の本流で、現在の十勝川は「大津川」という名前でした。豊富な水量で浸食を繰り返した川は蛇行を重ね、あちこちに河跡湖を形成しました。そのせいで、豊頃町浦幌町には今でも小さな湖沼が多く存在しています。

……いつになく地誌的なリードで頑張っていますが、それもその筈、肝心のネタであまり引っ張れないからです(汗)。では、永田地名解、行っちゃいますか。行かない手はないですよね。

Tō putu   トー プト゚   沼口

あー……。そうですよねぇ。更科源蔵さんの「アイヌ語地名解」も見ておきましょうか。

 統太(とうふと)
 浦幌川の下流の地名。アイヌ語のト・プッで沼えの入口の意。十弗(とうふつ)濤沸(とうふつ)などと同じ意。

あー……。そうですよねぇ(本日二回目)。to-putu という地名はあちこちにあって、たとえば道東の春国岱と走古丹の間の渡し舟も「遠太の渡し」と呼ばれていたみたいです。これは風蓮湖が海と繋がっているところですね。

戊午日誌にも、次のように記されていました。

しばし過て
     トウブツ
右のかた小川。其川すじ巾三四間、上に行て沼有、よって号也。沼の口と云事也。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 下」北海道出版企画センター p.363 より引用)

東西蝦夷山川地理取調図を見てみると、確かに旧浦幌川が下頃辺川と合流する手前に「沼」が描かれていました。ただ、現在の統太のあたりの旧浦幌川を見ても沼があったようには見えないので、沼があったとすると現在の生剛のあたりでしょうか。5 m の等高線がびみょうに窪んでいるのが見て取れます。

肝心の本題を記すのを忘れていました。to-putu で「沼・口」と考えていいかと思います。

十勝静内川(とかちしずない──)

si-utun(r)-nay???
主たる・間・川
(典拠あり、類型あり)

浦幌町南部を流れる浦幌川の支流の名前です。浦幌川にかかる「統太橋」から東の「霧止峠」に向かう途中には「静内」という地名もあります。ただ、日高の静内と紛らわしいからか、川の名前は「十勝静内川」となっています。支流には「セイヨシズナイ川」もありますね。

さて、「静内」という地名は、実はなかなかの難問だったりします。まずは山田秀三さんの「北海道の地名」を見てみましょうか。

静内 しずない,しつない
 オペッカウシ(生剛)の北側の川名,地名。日高の有名な静内川と区別するために,十勝静内川とも書かれている。
山田秀三北海道の地名」草風館 p.289 より引用)

はい。ここまでは良いですよね。

永田地名解は「シットゥネイ shittunei(両山の間)」と難しい解を書いた。あるいはシュッ・ナイ(shut-nai 山の裾の・川)ぐらいの名から出たものかもしれない。
山田秀三「北海道の地名」草風館 p.289 より引用)

なるほど。確かに永田地名解には次のようにあります。

Shittunei  シット゚ネイ  兩山ノ間
(永田方正「北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.299 より引用)

永田地名解に言う「シット゚」は situ のことでしょうか。situ は「山の走り根」と解釈されます。地形図を見た感じでは、確かにセイヨシズナイ川の東隣の支流の東側の山(ややこしい)がそれっぽい山容にも思えますが、果たして……。

山田さんは「あるいは sut-nay かも」と記していましたが、sut だと「山裾」あるいは「麓」となりますね。ちょっとありきたりな感じなので決め手に欠ける印象があります。

ということで、この項も決め手を欠いたままお開きになりそうです(ぉぃ)。永田地名解の記述から考えてみると、si-utun(r)-nay で「主たる・間の・川」あたりなんでしょうか(ここまで 2019/9/2 加筆)。あ、「セイヨシズナイ川」は sey-o-{シズナイ} で「貝・ある・シズナイ川」なんだと思います。

カタサルベツ川

katam-sar-pet???
ツルコケモモ・原・川
(??? = 典拠なし、類型未確認)

引き続き「決め手に欠けるシリーズ」を続けたいと思います(ぉ)。カタサルベツ川は十勝静内川の南支流ですが、マイナーすぎるからか手元には全く情報がありません。

ka-tasa-ru-pet で「上(かみ)・向かう・道・川」と逐語訳することは不可能ではないのですが、類型が無さそうな気がするのでちょっと無理があるかなーと思います。katam-sar-pet で「ツルコケモモ・原・川」の閉音節 m が落ちて「カタサルベツ」になったというのであれば類型もあるのですが、いかがでしょうか。

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