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アイヌ語地名の傾向と対策 (20) 「遠別・風連別・初山別」

この話題を仕上げておかないことには次のネタに進めないもので、もう暫くお付き合いくださいませ。

遠別(えんべつ)

u-ye-pet??
おたがい・話す・川
(?? = 典拠あるが疑問点あり、類型未確認)

「エンベツ」という音から想像できるのが wen-pet(ウェン・ペッ)という地名で、実際に道内各所で目にします。なかでも幌加内町の「雨煙別」はとても秀逸な字を当てたものだと感心します。意味は「悪い・川」となりますが、より日本語として読み下すと「良くない・川」とすべきでしょうか。何が良くないかは場所によって様々で、水が良くない、足場が良くない、縁起が良くない等があったようです。

この「遠別」も wen-pet ではないかと思いたくなるのですが、実は反対意見が多数のようで、たとえば永田方正「北海道蝦夷語地名解」にも「Uye pet ウイェ ペッ 相話スル川」と記されています。その脚注には

天鹽山中ノ土人海濱ニ出デ來リテ此處ノ土人ト相話スルヲ樂ミトス因テ名ク和人「ウエンペツ」ト稱スルハ誤リナリト「テセウ土人云フ元祿十三年松前島郷帳ニハ「ウイベツ」トアリ
(永田方正「北海道蝦夷語地名解国書刊行会 p.409 より引用)

とあります。古い資料に遡るにつれ、「ウヱベツ」や「ウイベツ」に辿り着くことが問題視?されているようです。永田説は u-ye-pet で「おたがい・話す・川」という意味になるのだとか。

風連別(ふうれんべつ)

hure-pet
赤い・川
(典拠あり、類型あり)

こちらは「遠別」とは違って(今のところ)迷いようが無い地名です。hure-pet(フレ・ペッ)で「赤い・川」という意味。水に鉄分が多く含まれていたと思われるようです。枝幸の「フーレップ川」の親戚になりますね。

山田秀三さんは、その著書「北海道の地名」にて秀逸な補足を入れられています。

フーレ・ペッ(hure-pet 赤い・川)は諸地にあるが,濁音の前にンをつける東北弁のくせか,このようにフーレンベツとなっている例が処々にある。
山田秀三北海道の地名」草風館 p.134 より引用)

初山別(しょさんべつ)

so-e-san-pet?
滝・そこで・流れ出ている・川
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)

私が敬愛する故・山田秀三さんの「東北・アイヌ語地名の研究」(ISBN978-4-88323-063-1)に、「初山別の楽しかった調査紀行」というエッセイが収められているのですが、まさに題名のとおりで、いかに氏が調査紀行(フィールドワーク)を楽しまれていたかが良くわかります。驚くべきはこのフィールドワークが米寿(88 歳)を迎えられた頃になされていたことで、その成果としてのエッセイの執筆も含め、生涯にわたって頭脳明晰であったことが窺い知れます。尊敬の念を禁じ得ないばかりです。

初山別ですが、その山田秀三さんの説によれば so-e-san-pet で「滝が・そこで・流れ出ている・川」なのではないかとのこと。永田方正翁は「Shusamu pet シュサㇺ ペッ シュサㇺ魚ノ川 (シュサㇺハ魚ノ名)」として「ししゃもの川」という解釈を残しましたが、否定的な見解が多いようですね。

北海道駅名の起源(昭和 48 年版)は次のように記します。

アイヌ語の「ススハム・ペッ」(シシャモの川)から転かしたものであるというが疑問である。「シュシュ・サム・ペッ」(ヤナギ原の近くの川)でなかったかと思われる。
(「北海道駅名の起源(昭和48年版)」日本国有鉄道北海道総局 p.108 より引用)

susu-sam-pet で、確かに「柳・傍・川」となりますが、個人的にはちょっと後付けのような感じに思えてしまいます。やはり山田説を推したいところです。

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