Bojan International

旅行記・乗車記・フェリー乗船記やアイヌ語地名の紹介など

北海道のアイヌ語地名 (1311) 「辺溪別大橋・ポロカウンナイ川・サッシビチャリ沢川」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院地理院地図から配信されたものである)

辺溪別大橋(ぺんけべつ──)

penke-pet
川上側・川
(旧地図に記載あり、既存説、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院地理院地図から配信されたものである)

道道 111 号「静内中札内線」の橋で、静内川の北支流である「ペンケベツ沢川」が高見ダム(静内川)のダム湖である「高見湖」に注ぐあたりに存在します。「般別大橋」の次に立項すれば良かったのですが、そうしなかった理由は単なるうっかりミスです(ぉぃ)。

北海道実測切図』(1895 頃) には、現在の「ペンケベツ沢川」の位置に「ペンケペッ」と描かれていました。


戊午日誌 (1859-1863) 「志毘茶利志」には次のように記されていました。

扨しばし上りて、此辺は川すじと云は少しも通られざるよしなるが、山の上を伝ひ行て
     ヘンケベツ
左りの方相応の川也。是上の川と云儀也。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読『戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 下』北海道出版企画センター p.616 より引用)

ということで、どこからどう見ても penke-pet で「川上側・川」なのですが、改めて考えてみるとよくわからないネーミングですね。「ペンケなんとかベツ」であれば、似たような「なんとかベツ」が複数並んでいる……と理解できるのですが、「ペンケベツ」には「なんとか」に相当する部分が欠けている(あるいは失われている)んですよね。

パンベツ川」と「ペンケベツ川」は、「シュンベツ川」や「コイボクシュシビチャリ川」などの大物を除外すれば、それなりに大きな支流ではあります。相応しい川名が思いつかないけれど、それなりに大きな川なので「川上側の川(=支流)」と呼んだ……ということでしょうか……。

ポロカウンナイ川

horka-ahun-nay??
逆方向に・入り込む・川
(?? = 旧地図に記載あり、独自説、類型未確認)
(この背景地図等データは、国土地理院地理院地図から配信されたものである)

「ペンケベツ沢川」の東隣を流れ、高見ダム(静内川)のダム湖である「高見湖」の東側に注ぐ北支流です。道道 111 号「静内中札内線」は「幌寒橋ほろかんばし」で「ポロカウンナイ川」を渡っています。

ただ 『北海道実測切図』(1895 頃) には「ロカウンナイ」と描かれていました。


東西蝦夷山川地理取調図』(1859) には「ホロアフンナイ」とあるのがちょっと気になりますが、戊午日誌 (1859-1863) 「志毘茶利志」には次のように記されていました。

またしばし過て
     ホロカアンナイ
左りの方小川也。其名義は海老の如く屈曲したる様成る故号也。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読『戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 下』北海道出版企画センター p.617 より引用)

やはりと言うべきか、horka-an-nay みたいですね。horka は「後戻りする」という意味の完動詞だとされますが、永田方正horka を「逆流する」と表現してあらぬ勘違いを招いたことがあるので、個人的には「U ターンする」と表現するようにしていました。

ただ、よく考えると an も完動詞なので、horka-an というのは少々奇妙なことになってしまいますが、地名では少なからず horka-an という用法を見かけます。

アイヌ語沙流方言辞典』(1996) では horka を(自動詞に由来する)副詞としていますが、horka-an という用法が存在することを考えると適切な解釈かもしれません。この場合、horka は「逆方向に」となるので、horka-an であれば「逆方向に・ある」となるでしょうか。

逆方向に……ない?

実はもっと大きな問題がありまして……。松浦武四郎はこの川名を「海老の如く屈曲したる様成る故」としているのですが、現在の「ポロカウンナイ川」はそれほど屈曲しているようには思えないのですね。

horka 地名の代表格とも目される「幌加内川」は、水源に向かって遡ると(本流の雨竜川から見て)完全に方向が逆になってしまうので、まさに horka-an な川なのですが、現在の「ポロカウンナイ川」はほぼ真っすぐ流れているので、とても horka-an(逆方向に・ある)には見えません。

ただ、よく見ると河口付近がもの凄く屈曲しているので、「ホロカアンナイ」あるいは「ホロカウンナイ」はこのことを形容したネーミングなのかもしれません。「ホロカウンナイ」は horka-un-nay かなと思わせますが、ahun で「入っている」あるいは「入り込む」を意味する語があるので、horka-ahun-nay で「逆方向に・入り込む・川」だったのかもしれません。

あ、そう言えば「東西蝦夷──」では「ホロナイ」でしたね。単なる誤記の可能性も高いですが、あるいは……?

サッシビチャリ沢川

sat-{sipe-ichan-i?}
乾いた・{シビチャリ}
(? = 旧地図に記載あり、既存説、類型未確認)
(この背景地図等データは、国土地理院地理院地図から配信されたものである)

静内川(かつての「メナシベツ」)を遡ると、道道 111 号「静内中札内線」の「東の沢橋」のあたりで「コイボクシュシビチャリ川」と「コイカクシュシビチャリ川」に分かれています。

「コイカクシュシビチャリ川」(東を通るシビチャリ)を遡ると「東の沢ダム」があり、ダム湖の「東の沢調整池」で「ベニカル沢」「サッシビチャリ沢川」「コイカクシュシビチャリ川」の三つに分かれています。

東西蝦夷山川地理取調図』(1859) にはそれらしい川が見当たりませんが、『北海道実測切図』(1895 頃) には「サッシピチヤリ」と描かれているように見えます。


「東西蝦夷──」には見当たらないにもかかわらず、戊午日誌 (1859-1863) 「志毘茶利志」には次のように記されていました。

是よりして右の方
      サツシヒチヤリ
 此川、西川より少し小さきよりして一字を下げ置也。其名義は干たシヒチヤリと云儀也。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読『戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 下』北海道出版企画センター p.618 より引用)

どうやら sat-{sipe-ichan-i?} で「乾いた・{シビチャリ}」ではないかとのこと。「シビチャリ」自体の意味が明確ではありませんが……。

前の記事

www.bojan.net
Copyright © 1995- Bojan International