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アイヌ語地名の傾向と対策 (218) 「安住・仁居常呂川・ウコオピ川」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院地理院地図から配信されたものである)

安住(あずみ)

anchi
黒曜石
(典拠あり、類型あり)

置戸町の中心地から常呂川を少し(4~5 km ほど?)遡ったあたりの地名。見たところ和名っぽい感じですが、今回は久々に「角川──」(略──)を見てみましょうか。

 あずみ 安住 <置戸町>
[近代]昭和18年~現在の行政字名。はじめ置戸(おけと)村,昭和25年からは置戸町の行政字。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.69 より引用)

ここまではいいですよね。続きを見てみましょうか。

地名は,豊かな農耕地に安住するという意により命名
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.69 より引用)

あうあう。やはり和名っぽい感じですね……。

ただ、地図をよーく見てみると、置戸町安住のあたりに「オンネアンズ川」と「ポンオンネアンズ川」という川が流れていることに気がつきます。これはいかにもアイヌ語っぽい感じです。ということで、わざとらしい前置きもほどほどに、山田秀三さんの「北海道の地名」を見てみましょう。

明治30年5万分図では,置戸の少し上流にオンネアンジ,ポンアンジの二川が並流して常呂川に注いでいる。永田地名解はそれを「大黒曜岩,小黒曜岩」と訳しているが,もちろん大・黒曜石(川)の意である。
山田秀三北海道の地名」草風館 p.204 より引用)

onne は「年老いている」という意味ですが、地名では「大きい」であったり「親である」といった意味で使われることがあります。知里さんの説によると「親である」という意味での onne の対義語は pon なのだとか。確かに「オンネアンジ」と「ポンアンジ」であれば理に適っていますね。もっとも、それだと現在の「ポンオンネアンズ」というのは少々意味不明になってしまいますが……。

「黒曜石」は天然のガラスのような石で、その破片は古代から物を切るのに重宝されてきました。黒曜石は別名「十勝石」とも言われ、その名の通り十勝三股のあたりに一大産地があったほか、白滝(遠軽町)のあたりでも産出したそうです。

そして、山田秀三さんの話によると、この置戸町安住でも黒曜石は沢山採れたとのこと。地名(川名)として残るくらいですから、やはり……と言うべきなのでしょうね。ですので、

 この辺の土地を安住という。アンズに安住の字を当て,それを「あずみ」と読ませるようにしたものではなかろうか。
山田秀三「北海道の地名」草風館 p.204 より引用)

こういった想像も「然もありなん」と思わせるわけです。「安住」は anchi(-pet) で「黒曜石」だった可能性が高いのでは無いでしょうか。

仁居常呂川(にいところ──)

ni-o-tokoro
漂木・多くある・常呂川
(典拠あり、類型あり)

常呂川は、安住(置戸町)と勝山(置戸町)の間で北流する支流と合流しているのですが、その支流の名前が「仁居常呂川」です。

意味がわかるようで良くわからないので、ささっと「北海道の地名」を見ておきましょうか。

仁居常呂川 にいところがわ
 常呂川の源流は勝山市街のそばで二股に分かれていて,その右(北)股が本流で,左(南)股は仁居常呂川と呼ばれている。明治30年5万分図では,右股がシートコロ,左股がニオトコロと書かれていた。
山田秀三「北海道の地名」草風館 p.204 より引用)

ふむふむ。「北海道地形図」を確認しましたが、確かに「シートコロ川」に「ニオトコロ川」が合流しているようです。なるほど、ニオトコロなら何となくわかる気がします。ni-o-tokoro で「木・多くある・常呂川」かな、と思ったのですが……

永田地名解は左股の方を「ニヨトコロ。樹木多き常呂川」と書いた。
山田秀三「北海道の地名」草風館 p.204 より引用)

ふむ。図らずも永田地名解と同じ解釈になってしまいました。

ニオの間に渡り音の y がついてニヨと呼ばれたのであったが,解の方は,この形だと「ニ・オ・トコロ 漂木・が多くある・常呂川」であったろう。(立木が多い場合はふつうニウㇱという)
山田秀三「北海道の地名」草風館 p.204 より引用)

あー、その可能性には気が回りませんでした。ni-o で受ける場合は「漂木」と考えるべきなのですね。ということで、山田さんの説に従って ni-o-tokoro は「漂木・多くある・常呂川」と解釈しておきましょう。

ウコオピ川

uko-opi-i?
互いに・捨て去る(分かれていく)・もの
(? = 典拠未確認、類型多数)

仁居常呂川の支流には「百林班の沢川」「林班界の沢川」「岩松の沢川」「歌丸の沢川」といった和名のものが多いのですが、「ピリカベツ川」と「ウコオピ川」は数少ない?アイヌ語由来っぽい川の名前です。

音が pet-e-uko-opi-i(川・そこで・互いに・捨て去る・ところ=「二股」という意味)に近いなぁと思ったのですが、どうやらそのままだった可能性がありそうです。uko-opi-i で「互いに・捨て去る(分かれていく)・もの」となろうかと思います。意図をしっかりと和訳すると「二股川」になりそうですね。

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