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アイヌ語地名の傾向と対策 (279) 「花苦志辺川・ハンラコロシュ川・イベシベツ川」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院地理院地図から配信されたものである)

花苦志辺川(はなくしべ──)

pana-kus-pet??
川下のほう・通行する・川
(?? = 典拠なし、類型あり)

弟子屈町西部を流れる鐺別川の支流の名前です。おそらく「はなくしべ──」と読むのだと思いますが、もし間違えていたらご一報をお願いします。

この「花苦志辺川」ですが、明治期の地形図には「パナクシペッ」と記載されているように見えます(「シ」が少々不明瞭ですが)。このカナ表記を素直に読み解くと pana-kus-pet で「川下のほう・通行する・川」なのかなぁ、と思わせます。

ちなみに pana の反対は pena なので、より川上に pena-kus-pet が存在することが期待されるのですが、地図を見た限りではそれっぽい川の存在は確認できませんでした。今後の課題ですね。

ハンラコロシュ川

hanrakor-us-nay?
黒百合・多くある・沢
(? = 典拠あり、類型未確認)

雄阿寒岳の南側を流れる小河川の名前です。ちと物騒な感じもする川名ですが、きっと杞憂ですよね(そりゃそうでしょう)。

明治期の地形図には「ハラコロシュナイ」と書いてあるようにも見えます(こちらも「シ」がほぼ読めないのですが)。物騒な感じが更に増した感もありますが……。

少々首を傾げていたのですが、鎌田正信さんの「道東地方のアイヌ語地名」に次のように記されていました。

 ハンラコㇽ・ウㇱ・ナィ「hanrakor-us-nay 黒百合(りん茎)・群生している・川」の意である。りん茎を食用として、花は黒色染料に用いられた。
(鎌田正信「道東地方のアイヌ語地名【国有林とその周辺】」私家版 p.252-253 から引用)

ふむふむ。知里さんの「植物編」で確認してみたところ、「黒百合」は anrakor あるいは hantakor と呼ばれることが多かったのだとか。阿寒のあたりでは hantakor が優勢だったみたいですね。

hanrakor という用例は「植物編」には見当たらないのですが、anrakorhantakor に転訛する(逆かも知れませんが)途中に hanrakor という流儀が存在していたとしても不思議ではありません。というわけで、「ハンラコロシュ川」は hanrakor-us-nay で「黒百合・多くある・沢」であると見ていいのかな、と思います。

イベシベツ川

ipe-us-pet
食料・多くある・川
(典拠あり、類型あり)

阿寒湖は雄阿寒岳の西側に位置しますが、雄阿寒岳の北側にも「パンケトー」という池があり、また東側には「ペンケトー」という池があります。この 3 つの湖沼の間にはそれぞれ川が流れていて、パンケトーから阿寒湖に向かう川は「イベシベツ川」という名前で呼ばれています。

山田秀三さんの「北海道の地名」に記載がありました。さっそく見てみましょう。

イベシベツ川
 雄阿寒岳を東から北に半周して湖の北端に注いでいる川。阿寒湖に入っている最長の川である。
山田秀三北海道の地名」草風館 p.280 より引用)

むむ。現在の地形図を見た限りでは、東の「ペンケトー」から北の「パンケトー」に流れる(相当な傾斜のようなので、「流れ落ちる」が正解かも)川は「上イベシベツ川」となっているのですが、もともとはどちらも「イベシベツ川」だったのでしょうかね。

永田地名解は「イベ・ウシ・ペッ。食料・多き・川」と書いた。イペ(ipe)は食べ物であるが,魚を指している場合も多い。魚のいる川の意だったろうか。
山田秀三「北海道の地名」草風館 p.280 より引用)

ふむふむ。ipe-us-pet で「食料・多くある・川」なのですね。山田さんの考察通り、(食料となる)魚の多い川だったと考えられそうですね。

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