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アイヌ語地名の傾向と対策 (135) 「クッチャロ湖・ポン仁達内・オビンナイ川」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院電子国土Webシステムから配信されたものである)

クッチャロ湖

to-kutchar
湖・喉元
(典拠あり、類型あり)

浜頓別町の中心地にほど近いところにある湖(沼)の名前です。「屈斜路湖」と似ていますが、浜頓別にあるのは「クッチャロ湖」なので要注意です。

もっとも、その由来は同じらしく……おっと。まずは更科源蔵さんの「アイヌ語地名解」を見てみましょう。

 浜頓別市街の西の湖。クッチャロはクチャラの訛りで、湖の出口のこと、元来は咽喉部のことで、現在の大沼からクチャロ川の流れ出る口をトークチャラ(湖の咽喉)と呼んでいたのが湖の名になったもので、昔は小沼をペンケトウ(上の沼)、大沼をパンケトウ(下の沼)と呼んでいた。

はい。これ以上ツッコミの入れようのない、見事な解説です。もともと「クッチャロ湖」は to という名前でしかなく、クッチャロ湖から頓別川あるいはオホーツク海に流出する「川」の名前が to-kutchar (「湖・喉元」)でした。この to-kutchar が湖の名前として使われるようになり、「クッチャロ湖」となった……ということのようです。

ま、言ってしまえば「クッチャロ湖」という名前は「本末転倒」なのですが、野暮なことを言うのはやめておきましょう。:)

ポン仁達内(ぽんにたちない)

pon-nitat-nay
小さな・湿地・川
(典拠あり、類型あり)

浜頓別町、クッチャロ湖(大沼)の南西に位置する地名です。実は「仁達内」という地名も近くにあるのですが、「ポン」をそのままカタカナのまま残した先人に敬意を表して、「ポン仁達内」を取りあげてみました。

想像するに、おそらく pon-nitat-nay あたりだと思うのですが……とりあえず「アイヌ語地名解」を見ておきましょうか。

 仁達内(にたちない)
 浜頓別町の小沼の奥。昔は相当奥まで小沼が入り込んでいたと思われる。その沼地のあとが湿地になり、その間を仁達内川が曲流している。仁達内部落はその川の支流オサチナイ(川尻の乾く川)の合流点から上流にひらけている。
更科源蔵更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.189 より引用)

あえて引用してみたのですが、これは現在の仁達内川の姿とは似ても似つかないようです。というのも、小沼とオサチナイ川の間は曲流していませんし、更には名前も「クッチャロ川」になってしまっています。

ちなみに、仁達内川の名前は、オサチナイ川との合流点より上流に残っています。続きを見てみましょう。

仁達内はニタッナイに当て字をしたもので、ニタッは湿地、即ちヤチのことであり、ヤチ川の意味である。
更科源蔵更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.189 より引用)

「仁達内」は nitat-nay で「湿地・川」のようですね。「ポン仁達内」は仁達内の支流で、pon-nitat-nay 即ち「小・湿地・川」ということになります。

オビンナイ川

o-pin-nay??
川尻・渦・川
(?? = 典拠未確認、類型あり)

クッチャロ湖(小沼)の南西のあたりを流れ、小沼に注ぎ込む小河川の名前です。

えー、そうですねぇ。o-pin-nay とは考えられないでしょうか。ただ、pin-nay だと「溝・川」といった感じで、「細く深い谷川」となるのですが、o- がつくと「川尻(が・に)」となるので、「川尻・溝・川」というのは意味が変ですね……。

ただ、pin(もともとは pir)には「溝」以外にも「渦」といった意味もあるので、「川尻・渦・川」だとすれば、それほどおかしな解釈では無いのかもしれません。知里さんの「──小辞典」によれば、pir-o-p で「灘」といった解釈もできるようなので、「渦」と言うよりは、「淀み」のほうがより近いのかも……。

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