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アイヌ語地名の傾向と対策 (675) 「パンケナイ川・ペンケナイ川・トヨマナイ川」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

パンケナイ川

panke-nay
川下側の・川
(典拠あり、類型多数)

クンネシリ川の南、2001 年に廃止された「下中川駅」があったあたりを流れる川の名前です。「東西蝦夷山川地理取調図」では「問寒別川」と同レベルの大河として描かれています(理由は不明)。

順番が前後しましたが、「東西蝦夷山川地理取調図」では河口のところに「ハンケナイブト」と言う地名が描かれています。また「天之穂日誌」にも次のように記されています。

過て
     ハンケナイブト
左りの方平地に川巾十間計の沢有。遅流にして深し。前に洲有。むかしは此処に弐十三軒程人家有しとかや。然るに今は一軒もなし。其子孫今弐三軒浜とトマヽイに残り居るよしなり。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読「丁巳東西蝦夷山川地理取調日誌 上」北海道出版企画センター p.492 より引用)

……改めて眺めてみると、わざわざ引用することも無かったですね(汗)。panke-nay は素直に「川下側の・川」と解釈すれば良さそうです。

ちなみに、「パンケナイ川」の支流に「林道沢川」という川があるのですが、その「林道沢川」(あるいはその支流)を遡った先に「パンケ山」という山もあります。このあたりは川名と山名が(あるいは山名と川名が)セットになっているケースが目立ちますね。

ペンケナイ川

penke-nay
川上側の・川
(典拠あり、類型多数)

「パンケナイ川」の河口から 1.5 km ほど南(上流側)に遡ったあたりで天塩川に合流する、同じく東支流の名前です。「東西蝦夷山川地理取調図」にも「ヘンケナイ」と描かれています。

「天之穂日誌」には次のように記されていました。

此処に燕多し、少し上りて
     ヘンケナイヒタリ
洲有。此当りに成柳の木多く生たり。又未・午・巳のみと針を取て、
     ヘンケナイトボ
左りの方川有。巾七八間、遅流にして深し。此上に沼一ツ有。其に芰実有るよし。針位未向。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読「丁巳東西蝦夷山川地理取調日誌 上」北海道出版企画センター p.493 より引用)

「ヘンケナイヒタリ」の「リ」には(ラ)とルビが振られていたので、おそらく「ヘンケナイヒタラ」だろうと考えて良さそうですね。

注意すべきは、「東西蝦夷山川地理取調図」によると「ヘンケナイヒタラ」と「ヘンケナイトウホ」は天塩川の西側の地名として描かれているところです。「天之穂日誌」には「左りの方」に「ヘンケナイトボ」という「川」があるように記されているのに対し、「東西──」では「右の方」の川?として描かれています。

「ヘンケナイヒタラ」は {penke-nay}-pitara で「{ペンケナイ}・川原」だと思われます。「ヘンケナイトボ」あるいは「ヘンケナイトウホ」は {penke-nay}-{to-po} で「{ペンケナイ}・{小沼}」でしょうか。「天之穂日誌」には「此上に沼一ツ有」とあるので、「ペンケナイ」の上流部に小さな沼がある、ということかもしれません。

「ヘンケナイ」の他に「ヘンケナイヒタラ」や「ヘンカナイトウホ」が出てきて一瞬「むむむっ?」となりましたが、結局の所は「ヘンケナイ」という川とその付随物と見て良さそうですね。penke-nay は「川上側の・川」と考えていいかと思います(ここまで引っ張る必要あった?)。

トヨマナイ川

penke-tuye-oma-nay
川上側の・切る・そこに入る・川
(典拠あり、類型あり)

中川町の市街地は、JR 宗谷線天塩川に挟まれた狭いエリアに広がっています(もともとは天塩川が西側を蛇行していたのですが、天塩川がまっすぐ流れるように改修されたことで、余計狭くなった印象もあります)。「トヨマナイ川」は中川の市街地の南端部、天塩川と JR 宗谷線が最も接近したあたりで合流する東支流です。

「東西蝦夷山川地理取調図」には「トイヲマヘツ」と「ヘンケトイヲマヘツ」という川が並んで描かれています。また明治時代の「北海道地形図」には「パンケト゚イェオマナイ」と「ペンケト゚イェオマナイ」という川が並んでいます。現在の地形図と見比べてみると、「パンケト゚イェオマナイ」が「銅蘭川」で、「ペンケト゚イェオマナイ」が「トヨマナイ川」のように思えます(違っていたらすいません)。

「天之穂日誌」には次のように記されていました。

こへて洲有。柳・赤楊多し。
     トイヲマナイ
左りの方小川。此右の方に山有り。上に松多し。よつて黒く見ゆ。
     ベンケトイヲマナイ
左りの方小川、此処右岸にカンヒの木多し。山一面に白く見ゆ。其木よく生長したり。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読「丁巳東西蝦夷山川地理取調日誌 上」北海道出版企画センター p.496 より引用)

肝心の「トイヲマナイ」の意味については永田地名解に記載がありました。

Panke tuye oma nai  パンケ ト゚イェ オマ ナイ  下ノ潰川
Penke tuye oma nai  ペンケ ト゚イェ オマ ナイ  上ノ潰川

penke-tuye-oma-nay は「川上側の・切る・そこに入る・川」と解釈できそうでしょうか。「トイ」系の地名は、調味料として用いたとされる珪藻土を意味する toy に由来することが多いのですが、ここは toy ではなくて tuye だったようです。

tuye は白糠の「恋問」などと同じく「切る」という意味ですので、天塩川が形成した自然堤防を「切る」ような川だった、ということでしょうか。

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