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アイヌ語地名の傾向と対策 (132) 「チュピタウシユナイ川・周麿・松音知」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院電子国土Webシステムから配信されたものである)

チュピタウシユナイ川

chip-ta-us-nay?
舟・掘る・いつもする・川
(? = 典拠未確認、類型多数)

中頓別町敏音知の集落の少し北で、頓別川と合流する支流の名前です。これもさすがにマイナー過ぎて、「北海道の地名」や「アイヌ語地名解」には記載がありません。

……似たような川の名前が道内にあるのです。chip-ta-us-nay で「舟・掘る・いつもする・川」と解することができるのですね。ただ、これだと「チㇷ゚──」となって、「チュピ──」とはならないのです。

現在の表記に従って、「チㇷ゚」ではなく「チュピ」だとしたらどうなるか、という話なのですが、たとえば chup は「日」とか「月」といった意味があるのですが、「日を掘る」というのも意味不明です。ここは、「チュピ」が「チㇷ゚」の転訛である……と考えた方が自然かもしれません。

ただ、全く別の考え方として、chiw-pitar-us-nay という解釈もありかもしれません。これだと「波・川原・多くある・川」となります。このほうが「チュピタウシユナイ」には近くなりますが、果たしてどんなものか……。

周麿(しゅうまろ)

suma-rupne-i
石・大きくある・所
(典拠あり、類型あり)

NHK の登坂アナと言えば、今やすっかり「北海道の顔」とも言える存在ですが、意外なことに出身は東京なのだとか。てっきり北海道の出身だとばかり、勘違いしていました……。

さて「周麿」です(前フリは何だったんだ)。かつて国鉄天北線に「周磨」という仮乗降場があったのですが、残念ながら「仮乗降場」だったため、「北海道駅名の起源」には記載がありません。

地図を見てみると、「周麿橋」は「シュウマロネップ川」という川にかかっています。おそらくは「シュウマロネップ」がそもそもの名前だったのでしょう。幸いなことに、永田地名解に記載がありました。

Shuma rupne-i  シュマ ルㇷ゚ネイ  石大ナル處 川中ニ大石アリ

ふむふむ。suma-rupne-i で「石・大きくある・所」ですか。「シュウマロネップ」と「シュマルㇷ゚ネイ」では「プ」と「ネ」の音が入れ替わってしまっていますが、音韻転倒は割とある話なので、ここもきっとその一例だったのでしょう。念のため「シュウマロネップ」でも解釈できないか検討してみましたが、これといった試案は浮かびませんでした。

ちなみに、「周麿橋」と国鉄の「周仮乗降場」では字が違うのですが、「磨」は「磨く」という字で「まろ」とは読めないため、なぜ国鉄がこの字にしたのかは謎……なのだとか。

松音知(まつねしり)

matne-sir
女・山
(典拠あり、類型あり)

中頓別町のど真ん中に位置する「敏音知岳」のお隣にある山の名前で、麓の集落の名前としても使われています。今回は更科源蔵さんの「アイヌ語地名解」から。

 駅の南東にある松音知岳からとったもの。この山は隣の敏音知岳と夫婦山であって、マチネ・シリとは女山の意。羊蹄山や雌阿寒、日高のアポイ岳、樺戸と石狩の郡境にある待根山も全部同じマチネ・シリであった。

はい。matne-sir で「女・山」ということですね。ちなみに、敏音知岳と松音知岳を国土地理院の地形図で見てみると、頂上まで等高線がビッシリと詰まっている敏音知と、頂上に近いところでは等高線がまばらになっている松音知の姿を見て取れます。敏音知はとんがった形で、松音知はどことなくふくよかな形をしているのが面白いですね。

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