Bojan International

旅行記・乗車記・フェリー乗船記やアイヌ語地名の紹介など

アイヌ語地名の傾向と対策 (318) 「インダタラ川・カムメロベツ川・パンケアイアン沢川」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院地理院地図から配信されたものである)

インダタラ川

e-en-tak???
頭・尖った・塊
(??? = 典拠なし、類型未確認)

大樹町と広尾町の境を流れる紋別川の支流の名前です(インダタラ川自体はほぼ全域で広尾町を流れています)。それにしても、インダタラ……。ホンダの車名でしょうか(違う)。あるいはゴダイゴでしょうか(全然違う)。

手持ちの資料をそれとなく当たってみたのですが(なんとテキトーな)、残念ながら参考になりそうな記述を見つけることができませんでした。

似たような語感の単語としては、initara で「枕」というものがありました。nay-initara で「川底」という意味になるようですが、知里さんによるとこれは「樺太方言」とのことで、「インダタラ」と結びつけるのは少々難しそうな感じです。

萱野さんの辞書を見ると nitata で「両方の脇から支える」と言った意味があるみたいです。i-nitata-ra だと「それが・両方の脇から支える・低い」などとなるのですが、あまりにも意味不明です。

どうしたものだろう……と地図を眺めていたところ、明治期の地図には「インダタラ」ではなく「エエンタク」と書いてあるではありませんか。これならなんとなく読み解けそうな感じがしてきました。e-en-tak だと「頭・尖った・ごろた石」と読めそうです。でも「尖ったごろた石」というのは本質的に矛盾しているので、「頭・尖った・塊」あたりがいいのかも知れません。

カムメロベツ川

kamuy-o-rok-pe
神様が・そこに・座っていらっしゃる・ところ
(典拠あり、類型あり)

広尾町北部を流れる豊似川の支流です。国道 236 号線の「上豊似橋」の下流側で南側から豊似川に注いでいます。なんとも良くわからない名前ですが、明治期の地図には「カムイオロㇰペ」とあります。なんだかこれなら理解できそうですね。kamuy-o-rok-pe で「神様が・そこに・座っていらっしゃる・ところ」あたりでしょうか。

伝統と信頼の永田地名解(いつの間に)には、次のようにありました。

Kamui-o-rok be  カムイオロㇰ ベ  熊ノ居ル處 「カムヨロㇰベ」ト云フハ短縮語ナリ

あう。そうか、そうでしたか。kamuy と言ってもふつーに「神様」と考えるだけでなく、「熊」だったり「レーシングドライバー」だったりすることもあるのですね(後者は違う)。

山田秀三さんの「北海道の地名」を見てみると、思っていた以上に詳細が記されていました。

カムメロベツ川
カムイロキ
 カムメロベツ川はカシュンナイの一本上の豊似川南支流。相当な川だが,地名の形は昔から見ると変わって来ている。明治 29 年 5 万分図はカムイエオロペッであった。カムイ・エ・オロ・ペッ(神が・頭を・水につけている・川)と読まれる。霊山が川に突き出している意だったろうか。現称はこれから訛ったものではなかろうか。
山田秀三北海道の地名」草風館 p.329 より引用)

ふーむ。kamuy-e-woro-pet と読んだわけですね。

松浦図や松浦氏東蝦夷日誌ではカモロキであった。
山田秀三「北海道の地名」草風館 p.329 より引用)

こちらで調べた限りでは、「東蝦夷日誌」の p.265 には「カモイロキ」とありました。また「東西蝦夷山川地理取調図」でも同じく「カモイロキ」だったようです。

川を少し上った処は小さいながら峡谷で,その上にのしかかるような山がある。たぶんこの山が霊山だったのであって,十勝川のカムイロキや日高の沙流川のカムイエロシキヒ(神様が立つていらっしゃる処。大崖である)と同じように,土地の人々に畏敬された場所だったのであろう。
山田秀三「北海道の地名」草風館 p.329 より引用)

山田さんの言う「のしかかるような山」が、具体的にどの山を指すのかは残念ながら良くわかりませんでした。

パンケアイアン沢川

panke-ay-an(-nay?)
川下の・イラクサ・ある(・川)
(典拠あり、類型あり)

帯広の東隣に位置する幕別町は「パークゴルフ発祥の地」として知られていますが、多分……関係ないですよね。パンケアイアン沢川は広尾町の北側に位置する豊似川の支流です。パンケアイアン川の南隣(上流側)には「ペンケアイアン沢川」もあります。また下流側にはパター川が……(あるわけない)。

「北海道地名誌」に記載がありました。

 パンケアイアン沢 豊似川上流の左支流にある沢。俗にパンケハヤニといっているが,アイヌ語で川下の方のいらくさあるの意か。
NHK 北海道本部・編「北海道地名誌」北海教育評論社 p.626 より引用)

なるほどー。panke-ay-an(-nay?) で「川下の・イラクサ・ある(・川)」でしょうかね。「パンケハヤニ」は panke-hay-an-i で「川下の・イラクサ(の繊維)・ある・ところ」でしょうか。

(この背景地図等データは、国土地理院地理院地図から配信されたものである)

前の記事続きを読む

www.bojan.net
Copyright © 1995- Bojan International