やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
幌別(ほろべつ)
登別市の中心地(市役所がある)で、同名の駅もあります。というわけで、今回もいつものアレを見ておきましょうか。
幌 別(ほろべつ)
所在地 登別市
開 駅 明治 25 年 8 月 1 日(北海道炭砿鉄道)
起 源 アイヌ語の「ポロ・ペッ」(親である川)から出たものである。
シンプル・イズ・ベストとはまさにこのことでしょうか。念のため昭和 29 年版の「──駅名の起源」も見てみましたが、所在地が「胆振国幌別郡幌別町」となっていた以外は違いがありませんでした。
知里さんと山田秀三さんの共著「幌別町のアイヌ語地名」には、次のようにありました。
(158) ポロペッ。<poró(大きい)pet(川)。幌別川。
意外と伝統的な解が出てきましたね。poro を即物的に「大きい」と解釈するか、あるいは構造的に「親である」と解釈するかは簡単に答の出ない問題だったりしますが……。
来馬川(らいば──)
黒松内町の「来馬川」については、アイヌ語地名の傾向と対策 (424) 「来馬川・幌加朱太川・重別川」をご覧ください。
JR 室蘭本線の幌別川橋梁のあたりで合流している支流の名前です。ややこしいことに幌別川の支流には、他にも「鷲別来馬川」「幌別来馬川」などがあります。更にややこしいことには、来馬川の支流に「ポン来馬川」もあります。「ポン来馬川」は来馬川と幌別川の間を流れていますが、来馬川とポン来馬川の間にも「ポン来馬川の支流」(名称未詳)が流れています。
また、登別市来馬町は来馬川の東隣を流れている「岡志別川」の西岸の台地あたりの地名です。あと、来馬川の源流を遡った先に「来馬岳」という山があって、その東側にあるカルルス温泉の近くに「サンライバスキー場」があります。
……えーと、とりあえず「ややこしいのね」とご理解ください(ぉぃ)。
問題の(?)「来馬川」ですが、永田地名解には次のように記されていました。
Rai pa ライパ 死者ヲ發見スル處 此ノ「ライパ」川ハ今ノ小學校ノ前ヲ流レタル比人多ク落チテ死シタリト云フ
黒松内にも「来馬川」がありますが、そこでも永田っちは「死人ヲ見付ル處」としていましたね。解釈が一貫しているのはある意味大したものですが。
例の薄い本「幌別町のアイヌ語地名」には、次のように記されていました。
(147) ライパ。ray(死んだ)pa(川口)の意で、古川の川口をさすか。
par あるいは paro で「口」という意味があるのですが、pa も「口」と解釈できるのですね。
「幌別町のアイヌ語地名」の共著者である山田秀三さんは、単著の「北海道の川の名」において、より深く掘り下げて検討を行っていました。
幌別川の川口に近く、東から入っている川。「永田地名解」は、ライパ(Rai-pa 死者を発見する処)と訳したが、pa を読みちがっていたものらしい。知里博士は Rai-pa(死んだ・口)で「古川の口」だと書いておられる(小辞典)。
なるほど。やはり永田説は「間違っている」のではないか、との解釈ですね。そして長年の仲間でもある知里さんの説についてもやんわりと疑問を呈します。
ところが、ライパは方々にあって、知っている範囲のライバは、必ずしも古川ではない。もう少し考えて見たい名である。川奥の方にもあるにはあるが、多くは幌別の来馬と同じように、本川の川口に横から入る川である。
ふむふむ。言われてみれば ut-nay(肋・川)のような形にも見えます。黒松内の来馬川についても、朱太川と合流するあたりでは似たような感じに見えますね。
鵡川のライバも同じ地形で、川口が淀んでいたと記憶している。つまり本川の方の川口と余り高度差のない、等高線に添ったような支流の pa(口)なのである。
鵡川にも「ライバ」があったのですね。あわてて地図を確認しましたが見つけることができず……。
知里さんとはよく協同して調査をした。あるとき、「どろんとして死んでいるような・川口」と、考え方を話されたことがある。どうもこれが本当の訳になるらしい。直訳するならば、死んだ・川口ではなく、Rai-pa「(流れが)死んでいる・口」、と解すとべきではなかろうか。
ふむふむ。山田さんが最終的に「流れが死んでいるような川口」という解にたどり着いたのは、知里さんの考えに基づくものだったのですね。ray-pa で「流れが死んでいるような・河口」となりそうです。
支流が本流に注ぐ場合、まるで滝のような勢いで流れ込むこともあれば、流れが澱んでいてどっちに流れているのかわからないような場合もあります。来馬川の場合は後者のような感じだったのではなかろうか……ということですね。
幌別の来馬の川口を見られたならば、同じ感じを持たれるに違いない。
地図で見た限りでは、今も似たような感じなのでしょうね。一度じっくり見ておきたいです。
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