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アイヌ語地名の傾向と対策 (524) 「ユピポリウシウヨロ川・シンスケウヨロ川・イシカリブーベツ川」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院地理院地図から配信されたものである)

ユピポリウシウヨロ川

{koy-pok}-us-{o-u-or-o}
{西のほう}・そこにある・{ウヨロ川}
(典拠あり、類型あり)

萩野と白老の間には「ウヨロ川」「ブウベツ川」「白老川」が並んで流れていますが、「ユピポリウシウヨロ川」はウヨロ川の上流域で合流している支流の名前です。「ウヨロ」は「ウヨロ川」のことで、「ウシ」は us のことだと思われますが、「ユピポリ」の意味が良くわかりません。

……これなんですが、まともに取り合う前に(ぉぃ)「コイポク」の誤記であると考えると辻褄が合いそうなことに気づきました。{koy-pok}-us-{o-u-or-o} で「{西のほう}・そこにある・{ウヨロ川}」と考えると、違和感無く解釈することが可能です。

シンスケウヨロ川

sin-noske-{o-u-or-o}
山・中央・{ウヨロ川}
(典拠あり、類型あり)

ユピポリウシウヨロ川は、小ぶりなダムのあるところでウヨロ川と合流していますが、「シンスケウヨロ川」は、更にウヨロ川の本流を遡った先を流れています。

「東蝦夷日誌」には「シノマンウヨロ」という、似ているような、でも違うような名前の川が記されています。sinoman-{o-u-or-o} であれば「本当に山奥に行っている・{ウヨロ川}」となりますね。

では「シンスケ」はどう解釈すべきか……という話ですが、これまたまともに取り合う前に(ぉぃ)「シンノスケ」の転記ミスと考えると辻褄が合いそうです。sin-noske-{o-u-or-o} だと「山・中央・{ウヨロ川}」となりそうでしょうか。

イシカリブーベツ川

e-shikari-{pu-pet}?
頭(水源)・回る・{ブウベツ川}
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)

ブウベツ川」はウヨロ川と白老川の間を流れていますが、「イシカリブーベツ川」はブウベツ川の中流域で合流する支流の名前です。本流は「ブウベツ川」ですが、支流は「イシカリブーベツ川」です。「ウ」が音引きに化けていますが、何故かと言うと……多分大した意味は無いのでしょうね(汗)。

「東蝦夷日誌」には「イシカリフベツ(右小川)」と記されています。「東西蝦夷山川地理取調図」にも「イシカリフヘツ」とあるので、昔からそこそこ正確な形で記録されていたようですね。

イシカリブーベツ、どことなく「石狩当別」と似た感じもしますが、意味も近いのかもしれません。e-shikari-{pu-pet} であれば「頭(水源)・回る・{ブウベツ川}」と解釈できるのでは無いでしょうか。

イシカリブーベツ川を地形図で見てみると、特に大きな特徴は無さそうで、敢えて言えば源流部が逆「S」字のように曲がっているくらいでしょうか。この特徴を「イシカリ」と呼んだのかな……と考えられなくはなさそうです。

ただ、知里さんの「──小辞典」には次のような語彙も記載されていました。

ésikari えシカリ *1 原義は‘つかむ’であるが,川について云えば水源がもぎとったように急に地中に消えてしまっているのを云う。
知里真志保地名アイヌ語小辞典」北海道出版企画センター p.27 より引用)

確かに田村すず子さんの「アイヌ語沙流方言辞典」にも esikari で「……をつかまえる」という意味がある旨が記載されていました。「水源が急に地中に消えてしまっている」というのは、イシカリブーベツ川には当てはまらないような気もしますが、一応ご紹介まで。

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*1:不完