やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
チエトイ
道東自動車道の本別 IC の北北西あたり、利別川の北側(IC から見ると対岸となる)の地名です。地理院地図には記載がありませんが、現役の地名とのこと。
永田地名解には次のように記されていました。
Chietoi チエトイ 食土(ハミツチ)
意味するところは明瞭で、chi-e-toy で「我ら・食べる・土」ということでしょう。「えっ、土を食べるの!」と驚かれるかもしれませんが、実は……知里さんの「──小辞典」を見てみましょう。
chi-e-toy, -e【H】/-he【K】 チえトィ 食用ねんど;けいそおど(珪藻土)。
珪藻土を食するとはこれいかに……という話ですが、続きを見てみましょう。
カラフトでは「チかりぺ」 chikaripe と称する煮込料理──北海道北東部で「レたㇱケㇷ゚」 retaskep,南西部で「ラたㇱケㇷ゚」 rataskep と称するものに当る──があり,野草の根や果実などを主な材料にして作る特別な料理であるが,その中に調味料のつもりで獣魚油と共にこの食用ねんどを少量入れるのである。
「調味料のつもりで」という表現が微笑ましいですが、その具体的な効能について、知里さんは次のようにも記していました。
チカリペに必ずチエトィを用ひるのは,野草のアクを抜き,海豹の強烈な油を適当に中和するのに役立つかららしい。アイヌは,チエトィの入ったチカリペは「甘い」といひ,「チカリペ程,美味しい御馳走はない」といふ。
この「食用土」、どうやら「アク抜き」のために若干量が投入されるものだった、ということのようですね。
モップ川
本別町の中心地に、利別川の東支流の「本別川」が流れています。モップ川は本別川の北支流で、本別川の支流の中ではもっとも長いものです。
鎌田正信さんの「道東地方のアイヌ語地名」には、次のように記されていました。
モ・プ「mo-p 子・もの(川)」の意で、本別川を親川として、その子供である川をさしているのである。
良く考えてみると、本別川自体が pon-pet(「小さな・川」、あるいは「子である・川」)なので、実は工夫の跡が感じられるネーミングだったのかもしれません。
子といっても相当奥深い川で、本別町の上水道の水源ともなっている。
ほー。mo-p というネーミングからは「子である・もの」だけではなく「穏やかな・もの」というニュアンスも感じられます。上水道の水源としては適切なチョイスなのかもしれませんね(清冽な水を安定して供給してくれそう)。
オネトップ
道道 658 号「本別本別停車場線」は、本別川中流部の「東本別」からかつての本別駅のあたりまでを結んでいます。東本別から先は「オネトップ林道」と呼ばれる林道が伸びているようですが、Google ストリートビューでは「通行止め」になっていました(林道なので、一般車の通行は制限されているのかもしれません)。
さてこの「オネトップ」(一部では「オナトップ」という表記も)ですが、どうやら現在「三の沢川」と呼ばれている、本別川の南支流の名前だったようです(川の名前としては現役ではなさそうですが、林道名に残っているので取り上げてみました)。
鎌田正信さんの「道東地方のアイヌ語地名」には、次のように記されていました。
本別町史によると『オンネ・トップは「老いた(大きい)・竹(根曲竹)」オンネ・卜は「老いた(大きい)沼」またオンネ・ト・パは「老いた・沼がしら」でいずれも川の名にしてはおかしい。おそらく沼につけた名であろう。』と書いた。
あー、onne-top は私も真っ先に考えたのですが、確かに川の名前としては変ですよね。
この辺には根曲竹も、沼も見当たらない。
ああ、やはり。さてどうしたものか……と思ったのですが、
あるいはオ・ネッ・オマ・プ「o-net-ona-p 川尻に・流木・ある・もの(川)」の意でなかろうか。
あっ、これは実にいいヒントを頂きました。もしかしたら稚内の「オネトマナイ川」を参考にされたのかもしれませんが、もっと素直に o-net-o-p とは考えられないでしょうか。これだと「河口・流木・多くある・もの」となります。
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