やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
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シーキウシュナイ山
鷹栖町西部にある標高 299 m の山の名前です。「──ナイ」というくらいなので川の名前っぽいですが、山の西側を流れる川は「六号川」という名前のようです。
ただ、やはり……と言うべきか、明治時代の地形図には「六号川」の位置に「シキマウシユナイ」あるいは「シーキナウシユナイ」と描かれていました。
知里さんの「上川郡アイヌ語地名解」には、次のように記されていました。
シキナウシナイ(Shikina-ush-nai 「ガマ草・群生している・沢」)
既に答が出ている感もありますが、永田地名解には次のように記されていました。
Kina ush nai キナ ウㇱュ ナイ 蒲川
どちらも似たようなものですが、永田地名解の「蒲川」というざっくりした表現に対して、知里さんが「違う、そうじゃない」とツッコミを入れているようにも見えます。
知里さんは永田地名解の「ざっくり解釈」にかなり不満を抱いていたようで、自著「アイヌ語入門」にて一章を設けて全力で批判していたのは御存知の通りです。
知里さんの「──小辞典」には kina は「草」だとあり、「ガマ」は si-kina である、と考えていたようです。「植物編」には次のように記されていました。
§ 408. ガマ Typha latifolia L.
( 1 ) si-kina(sí-ki-na)「志・キナ」[眞の・草] 莖葉 《北海道全地》
注 1.──この場合 kina わござを編む草をさす。ござを編む草わいろいろあるが,その中でガマが最も喜ばれるのでこの名があるのだとゆう。
「キナウシナイ」ではなく「シキナウシナイ」なので、ゴザを編むのに最も良い草が群生していた、ということになりますね。{si-kina}-us-nay で「{ガマ}・多くある・川」と解釈するのが良さそうです。
本来は川の名前だったものが近くの山の名前に転用され、川のほうは何とも無機質な「六号川」に変えられてしまった、ということのようですね。
珠万川(しゅまん──)
オサラッペ川の西支流で、シーキナウシュナイ山の北東を流れています。この川の上流部には「本田技研総合試験場」があるため、この川の半分近くはホンダの敷地内を流れていることになります。
「北海道地名誌」には次のように記されていました。
シュマム川 オサラッペ川の右支流。アイヌ語の「スㇺ・オマン」で, 西の方に行くの意と思う。漢字で珠万川とも書く。
地理院地図では「珠万川」となっていましたが、OpenStreetMap では「シュマン川」となっているので、いつものパターンのようですね(地理院地図と国土数値情報で川名に異同があるケースが多いのです)。
それはさておき、更科さんは sum-oman で「西・行く」と考えたようですね。なかなか説得力のある解だと思ったのですが、知里さんの「上川郡アイヌ語地名解」には全く異なる解が記されていました。
シュマム(Shumam)ここの山に昔ヤマイヌがたくさんいて越年していた。それで今いる古老たちの若い頃でも,ここの山は危険だから山狩に行つても決して野宿するな,とよくいましめられたものだったという。シュマムはたぶんシュマウ(shumáu 獲物の死体)のことで,ヤマイヌがシカなどを殺して食つていたことに関係のある名称であろう。
うわわ、なんか凄い解釈がでてきましたね。確かに sumaw で「熊の獲物」あるいは「殺した熊」を意味するみたいです。
ただ、知里さんの「──小辞典」を眺めていると、次のような項目が見つかりました。
summan すㇺマン 【ビホロ】西方にある。[<sum-wa-an(西方・に・ある)]
「獲物の死体」説はちょっと衝撃的ですが、現実的には更科さんの sum-oman 説や、「小辞典」にあるように summan で「西方にある」と考えたほうが良さそうな気がします。もしかしたら昔はエゾオオカミあたりが棲息していたのかもしれませんが……。
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