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茶内(ちゃない)
浜中町には JR 根室本線(花咲線)の駅が三つありますが、「茶内」はその中で最も西に位置する駅です。のっけから余談ですが、浜中町役場のある霧多布から JR に乗車する場合、浜中駅ではなく茶内駅を利用するのがベストアンサーなんでしょうか……?
それはそうと、駅名ですよ駅名! ということでまずは「北海道駅名の起源」を見てみましょうか。
茶 内(ちゃない)
所在地 (釧路国)厚岸郡浜中町
開 駅 大正 8 年 11 月 25 日
起 源 アイヌ語の「イチャン・ナイ」(サケの産卵場のある川)から出たものである。
えっ。随分とシンプルな由来なんですね。また更科源蔵さんの「アイヌ語地名解」には次のように記されていました。
茶内(ちゃない)
根室本線駅名。厚岸郡浜中町字茶内。『駅名の起源』では「イチャン・ナイで、鮭の産卵場ある川によるもの」だとあるが、どの地図にもこの辺りにそれにあたる川がないのではっきりしない。
そうなんですよね。ついでに言えば「初航蝦夷日誌」や「竹四郎廻浦日記」にもそれらしい記載を見つけられておらず、「永田地名解」もスルーしているように見えるのですが……。
ということで、山田秀三さんの「北海道の地名」を見てみると……
茶内の名は旧記類で見たことがないが,明治 30 年 5 万分図では,今の茶内市街の辺は,ノコベリ川の上流で,イチャンと書いてある。
あ。確かにノコベリベツ川(風蓮川水系)とチライカリベツ川(別寒辺牛川水系)の分水嶺のあたりに「イチャン」と描かれた地図がありますね(北海道地形図)。
「魚の住処」は何処に
改めて松浦武四郎の著作に目を通してみると、「初航蝦夷日誌」には「ベカンベウシ」(=別寒辺牛川)と「ヲラウシベツ」(=オラウンベツ川)の間に「チヘハキ」という地名が記録されていました。
チヘハキ
凡一りと思わる。小流有り。此間馬道よろし。両山平山にし而樹木多し。
また「竹四郎廻浦日記」にも次のように記されていました。
此辺より追々坂道に成、此辺より椴の木を見る。小き峠二三度こへて
チペヘハケ
ベカンベウシ
え着す。
この「チペヘハケ」は分水嶺を越えた先の地名?のようにも見えますが、chep-ewaki で「魚・住む所」と読めそうな気がします。ichan は「サケ・マスの産卵場」なので、似ているような、そうでも無いような……という感じですね。
ただ「初航蝦夷日誌」によると、「ベカンベウシ」から「ノコヘリベツ」までは馬で移動したらしく、JR 根室本線沿いではなく道道 813 号「上風連大別線」沿いを移動していたように見受けられます。距離の面では JR 沿いのほうが圧倒的に近くて楽に見えますが、チライカリベツ川沿いは湿原が広がっていて歩行が困難だったのかもしれません。
結局のところ、山田さんが「旧記類で見たことがない」としたのが正解っぽい感じですね。「茶内」は「イチャン」由来で、ichan は「サケ・マスの産卵場」と考えるしか無さそうです。
比理別(ひりべつ)
茶内駅の北北西、「オラウンベツ川」の南東の道道 807 号「円朱別原野茶内線」沿い(と言っても 50 m ほど離れてますが)に存在する四等三角点(標高 46.9 m)の名前です。
「ひりべつ」という音からは pir-pet で「傷・川」と読めそうで、これだと「細く深い川」を意味するのですが、果たしてそれらしい川があるかと言われると……あ。茶内駅の北東に「コベリベツ 1 号川」という川(ノコベリベツ川の東支流)があるのですが、この川は pir-pet っぽい感じがありますね。
国道 44 号に「比理別橋」があるのですが、この橋は「コベリベツ 1 号川」ではなく「ノコベリベツ川」の橋です。ただ、三角点の位置よりは「コベリベツ 1 号川」に近い位置にあるので、「ヒリベツ」=「コベリベツ 1 号川」と考える傍証の一つになるかもしれないな……と思ったりもします。
まぁ現時点では「決め手に乏しい」と判断するしか無さそうな感じですね。もしかしたら人名由来かもしれませんし……(「秩父内」がトラウマになってるらしい)。
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