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北海道のアイヌ語地名 (1138) 「タクタクベオベツ川・ルウクシチャロ川・パウシ川」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院地理院地図から配信されたものである)
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タクタクベオベツ川

taktaku-pe-o-pet?
にぎって丸めた・もの・多くある・川
(? = 記録あり、類型未確認)
(この背景地図等データは、国土地理院地理院地図から配信されたものである)

国鉄白糠線の終点だった北進駅のすぐ北で茶路川に合流する西支流で、川に沿って国道 274 号が通っています。イロベツ川との間に「立田保別」という名前の三等三角点がありますが、これは「?ったぼべつ」と読ませる……らしいです。

東西蝦夷山川地理取調図』(1859) には「タクタクテヘツ」という名前の川が描かれています(「テ」は「ヲ」の誤記かも)。『北海道実測切図』(1895 頃) には「タクタクペオペツ」と、ほぼ現在と同じ形で川が描かれていました。

永田地名解 (1891) には次のように記されていました。

Takutakube-o pet   タクタクベオ ペッ   大石多キ川 安政帳ニ大川ノ内大石アル處トアル是レナリ斜里郡ニ同名ノ地アリ

鎌田正信さんの『道東地方のアイヌ語地名』(1995) には、永田地名解を承けて次のように記されていました。

タクタク・ペ・オ・ペッ「tak-tak-pe-o-pet 玉石が・川のかみに・ごろごろしている・川」の意である。それこそ川口から上った所は、玉石(ごろた石)だらけの川筋である。
(鎌田正信『道東地方のアイヌ語地名【国有林とその周辺】』私家版 p.228 より引用)

tak-tak が「玉石」を意味するというのは異論がないのですが、pe-o-pet が「川のかみに・ごろごろしている・川」というのは、ちょっと違和感を覚えます。確かに『地名アイヌ語小辞典』(1956) には pe の項に「②川のかみ」とあるので、意味は間違ってないのですが、果たしてその語順はアリなのかな、という疑問が……。

「広報しらぬか」に連載された「茶路川筋のアイヌ語地名」には次のように記されていました。

「タㇰ・タㇰ(ごろごろした石)・ペ(あるもの)・オ(そこに)・ペッ(川)」という意味があります。
(広報しらぬか「茶路川筋のアイヌ語地名」より引用)

これは……更に文法的におかしくなっているような……。pe を「あるもの」としていますが、知里さんの『地名アイヌ語小辞典』には次のように記されています。

-pe 動詞・形容詞──それも必ず子音で終るもの──について,「……するもの」「……であるもの」の意をあらわす。
知里真志保『地名アイヌ語小辞典』北海道出版企画センター p.87 より引用)

-pe は「動詞」または「形容詞」の後ろにつくもので、tak-tak のような「名詞」の後ろにはつかない筈なんですよね。

ただ、『アイヌ語沙流方言辞典』(1996) には taktaku で「……をにぎって丸める」という語が記載されていました。これだと taktaku-pe-o-pet で「にぎって丸める・もの・多くある・川」と解釈できそうですね。

結局のところは「玉石の多い川」なのですが、玉石のことを「にぎって丸めたもの」と表現したのが面白いところでしょうか。もちろん玉石は川によって形成されたもので人為的に丸めたものではないのですが、人知を超える存在がにぎって丸めた……という考え方なのかもしれません。

ルウクシチャロ川

ru-kus-{charo}
道・通る・{茶路川}
(記録あり、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院地理院地図から配信されたものである)

国道 274 号の「上茶路基線北」のあたりでタクタクベオベツ川に合流する北支流です。『東西蝦夷山川地理取調図』(1859) には直接該当する川名は描かれていませんが、『北海道実測切図』(1895 頃) には「ルークシチヤロ川」と描かれていました。

鎌田正信さんの『道東地方のアイヌ語地名』(1995) には次のように記されていました。

ルー・クシ・チャロ「ru-kus-charo 路が・通って・チャロ(川)」の意で、かつてはこの沢をつめて裏側の稲牛川を下って足寄方面に出たのである。
(鎌田正信『道東地方のアイヌ語地名【国有林とその周辺】』私家版 p.226 より引用)

ru-kus-{charo} で「道・通る・{茶路川}」と見て良さそうですね。「ルークシュポール」と同じ構造の川名と言えそうです。

パウシ川

{tat-ni}-{chipa-chipa}-us-i??
{樺の木}・{探し求める}・いつもする・ところ
(?? = 記録はあるが疑問点あり、類型未確認)
(この背景地図等データは、国土地理院地理院地図から配信されたものである)

ルウクシチャロ川の西支流です。『北海道実測切図』(1895 頃) には「タツニシパシパウシ」と描かれていました。

鎌田正信さんの『道東地方のアイヌ語地名』(1995) には次のように記されていました。

白糠地名研究会は「タツ・ニ・チパ・チパ・ウシ  tat-ni-chipachipa-usi 樺皮がんぴの木・見つけた・ところ」とある。
(鎌田正信『道東地方のアイヌ語地名【国有林とその周辺】』私家版 p.229 より引用)

思いっきり孫引きで申し訳ありません。chi-pa で「我らが・見つける」を意味するのですが、久保寺逸彦アイヌ語・日本語辞典稿』(2020) によると chipa-chipa で「探し求める」や「望む」を意味するとのこと。

{tat-ni}-{chipa-chipa}-us-i で「{樺の木}・{探し求める}・いつもする・ところ」と読めそうでしょうか。鎌田正信さんは次のようにも記していました。

この沢を 500 ㍍くらい入って見たがカンバノ木は見あたらない。たまたま営林署の立木調査員が入っていたので聞いたところ、足寄町との境界付近に多くあるとのことであった。
(鎌田正信『道東地方のアイヌ語地名【国有林とその周辺】』私家版 p.229 より引用)

うーん、確かに整合性がありそうな感じも。

問題は「シパシパ」をどう捉えるかなのですが、chipa-chipa と考える以外にも sipsip で「トクサ」と考えられないかな……とも思ったりもしました。ただ「樺の木とトクサのある川」というのも違和感があるんですよね。

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