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北海道のアイヌ語地名 (1135) 「縫別・神ノ牛山・シュウトナイ川」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

縫別(ぬいべつ)

nuye-pet?
豊漁・川
(? = 記録はあるが疑問点あり、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院地理院地図から配信されたものである)

道東道白糠 IC のあたりの地名です。表記には揺れがあり、「ノイベツ」や「ヌイベツ」とカタカナで表記される場合もあります。同名の支流もあり、白糠 IC の東を北から南に流れています。かつては国鉄白糠線にも同名の駅がありました。

東西蝦夷山川地理取調図』(1859) には「ノイヘツ」とあり、『北海道実測切図』(1895 頃) では「ノイペツ」と描かれています。茶路川の支流の中でも大きな川ですが、何故か永田地名解 (1891) には記載が無いようです。

「北海道駅名の起源」には次のように記されていました。

  縫 別(ぬいべつ)
所在地 (釧路国)白糠郡白糠町
開 駅 昭和39年10月 7 日 (客)
起 源 アイヌ語の「ニウンペッ」(木のある川)から出たもので、これが「縫別」に転かしたのである。
(『北海道駅名の起源(昭和48年版)日本国有鉄道北海道総局 p.151 より引用)

一方、鎌田正信さんの『道東地方のアイヌ語地名』(1995) には異なる解が記されていました。

 ヌイェ・ペッ(nuye-pet 豊漁の・川) の意である。鮭をはじめ多くの魚がとれた川なのであった。
(鎌田正信『道東地方のアイヌ語地名【国有林とその周辺】』私家版 p.220 より引用)

白糠町の「広報しらぬか」にて連載された「茶路川筋のアイヌ語地名」も「ヌイ(豊漁・たくさんある)・ペツ(川)」説を取っていました。

現在の地名は「縫別」ですが、元々は「ノイヘツ」と記録されていたことを考えると、ni-un-pet で「流木・ある・川」よりは nuye-pet で「豊漁・川」と見たほうが妥当かもしれませんね。

神ノ牛山(しんのうしやま)

sin-not-us-nupuri
山・崎・ついている・山
(記録あり、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院地理院地図から配信されたものである)

国道 392 号の「明橋」の東、縫別川の支流である「縫別川支流」(そのまんま)を遡った先に標高 462.8 m の山があり、その頂上に「神ノ牛山」という二等三角点があります。

『北海道実測切図』(1895 頃) には茶路川と縫別川の間に「シンノッウシヌプリ」という標高 667 m の山が描かれていますが、「神ノ牛山」の標高は 462.8 m なので、「実測切図」はかなり山の高さを過大評価していたことになるでしょうか。また山頂の位置も実際よりも東偏しています。

また『北海道実測切図』には「シンノッウシヌプリ」の西に「シンノツウシ」という川が描かれています。これは現在、国道 392 号の「松五郎橋」の近くで茶路川に合流する無名河川のことですが、「シンノッウシヌプリ」は「シンノツウシ」の水源よりも南東に位置するように描かれています。

現在の「神ノ牛山」三角点は無名河川の北北東に位置していて、かつて「シンノツウシ」と呼ばれた無名河川とは接していません。どうやら「シンノッウシヌプリ」は「神ノ牛山」三角点の位置ではなく、より南の、標高 402 m の山を指していた可能性もありそうな感じです。

おそらく「シンノッウシヌプリ」の意味するところは sin-not-us-nupuri で、「山・崎・ついている・山」だと思われます。sinsir の音韻変化ですが、『地名アイヌ語小辞典』(1956) にも sin-not で立項されているので、事実上 sin-not で一つの単語と見たほうが良いのかもしれません。

sin-not は岬状の地形ですが、これは白糠 IC の西の、道東道が「大曲トンネル」で抜けている山のことかもしれません。

シュウトナイ川

si-{tun-nay}?
大きな・{谷川}
(? = 記録はあるが疑問点あり、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院地理院地図から配信されたものである)

国道 392 号の「保静ほしず橋」のすぐ手前で道道 665 号「上茶路上茶路停車場線」が西に分岐していますが、道道 665 号とほぼ同じルートで「シュウトナイ川」が流れています。川の北には「朱戸内」という名前の四等三角点(標高 306.0 m)も存在します。

東西蝦夷山川地理取調図』(1859) にはそれらしい川が見当たらないようですが、『北海道実測切図』(1895 頃) には「シュト゚ナイ」と描かれていました。

鎌田正信さんの『道東地方のアイヌ語地名』(1995) には次のように記されていました。

シュトゥナイ
シュウトナイ川(地理院図)
(鎌田正信『道東地方のアイヌ語地名【国有林とその周辺】』私家版 p.222 より引用)

あ、「シュナイ川」というのは「シュナイ」(=シュト゚ナイ)の転記ミスの可能性がありそうですね。

 白糠地名研究会は「シュッ・ナィ Shut-nay 老母 川」とある。
(鎌田正信『道東地方のアイヌ語地名【国有林とその周辺】』私家版 p.222 より引用)

うーむ。これはもう少し検討したほうが良さそうでしょうか。「広報しらぬか」に連載された「茶路川筋のアイヌ語地名」では、「シュツ=スッ(ふもと)・ナイ(沢)」としていました。

また「茶路川筋のアイヌ語地名」には次のようにも記されていました。

 白糠地名研究会は「スッ」について、その地形から、刺牛地区にある「シツナイ」〈シツ(尾根)・ナイ(沢)〉に通じるものとして、「シツナイは、山と山にはさまれた狭い沢のことを言う。これをスッナイと解してもふもとの沢となる」と説明しています。
(広報しらぬか「茶路川筋のアイヌ語地名」より引用)

むむ、「白糠地名研究会」の見解が全く異なっているのですが……。sut-nay で「ふもと・川」という解は、なぜそう呼んだ(呼ぶ必然性があった)のかが今ひとつ見えてこないので、若干疑問が残ります。また「トゥ」という音の出どころも不明ですが、これは sut-us-nay で「ふもと・ついている・川」だったとすれば問題無さそうでしょうか。

{si-tu}-nay を素直に解釈すると「{大きな尾根}・川」となるでしょうか。「シュウトナイ川」の北に伸びる山が「大きな尾根」と呼べそうなので、その南麓を流れる川を si-tu-nay と呼んだとしても不思議は無さそうです。

ただ、それだったら si-{tun-nay} で「大きな・{谷川}」と考えたほうが、より実際の地形に即しているような気がします。これは「シ」が「シュ」に化ける必要があるのですが、よく考えたら {si-tu}-nay も同じでしたね(汗)。

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