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アイヌ語地名の傾向と対策 (158) 「鴛泊・ペシ岬・本泊」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院電子国土Webシステムから配信されたものである)

鴛泊(おしどまり)

o-sut-enkor-tomari?
端(尻)・ねもと・(岬・)泊地
us-tomari?
入江・泊地
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)

利尻島の北の玄関口で、利尻島でフェリーが通年運行される唯一の港でもあります。沓形と並んで利尻島で一・二を争う都会ですね。

今回は山田秀三さんの「北海道の地名」から。

 利尻島北部の舟着場の地名。東利尻町内で,役場の所在地である。箱館奉行所文書に「オシトマリの儀は四,五丁入込候澗にて深さ七尋もこれあり」と書かれた。天保5年(1834 年)測量の今井八九郎図では,ちょうどそこにウシトマリと書かれてある。
山田秀三北海道の地名」草風館 p.157 より引用)

ということで、山田さんは us-tomari で「入江・泊地」ではないか、としています。一方で更科源蔵さんは……

オシトマリの語源については、はっきりした結論が得られない。明治年間の地図には、皆オシトマリとなっているが、安政年中の松浦武四郎の地図には、現在の港の方にシヤコカイウシ、ホエンルンホとあり、現在ペシ岬のところにシヘ(シ・ペㇱで大きい方の崖)とモヘシ(モ・ペㇱで小さい方の崖)とあり、市街の方にはヌツフルヲルマナイという地名があるだけ。

「シヤコカイウシ」は sak-okay-us-i で「夏・多くいる・いつもする・所」でしょうかね。「ホエンルンホ」は、えーと…… pon-enrum-po でしょうか。「小さな・岬・小さい」というのも、ちと意味不明ですが……。「ヌツフルヲルマナイ」は nutap-ru-or-oma-nay あたりでしょうかね。

更科さんの文にはもう少し続きがあります。

雄忠志内の近くのオシコントマリが移動したとも考えられる。松浦地図ではヲシユエコントマリとある。
 オス(根元の端の)トマリ(入江)とする説もあるが、定かではない。
更科源蔵更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.207 より引用)

んんー、段々わけがわからなくなってきました。最後の o-sut-tomario-sut-enkor-tomari が略されたと考えればいいのでしょうか。だとすれば「端(尻)・ねもと・(岬・)泊地」となります。「尾根の端の岬の港」であれば、現実の鴛泊の地形に即していると言えそうですね。

ペシ岬

pes
(水際の)崖
(典拠あり、類型あり)

鴛泊のランドマークとも言える岬ですが、もはや「岬」と言うよりは「山」と言ったほうがいいかも知れません。標高は 92.3 m もあります(!)。一度でも鴛泊を訪れたことのある方ならば、その存在感から真っ先にその姿形を思い出されるのでは無いでしょうか。

そんな存在感ありまくりのペシ岬ですから、その名前の由来もきわめて単純です。pes で「(水際の)崖」です。以上!

本泊(ほんとまり)

pon-tomari
小さな・泊地
(典拠あり、類型あり)

利尻島北部、利尻富士から見ると 11 時の方向にある集落の地名です。すぐ近くに利尻空港もあります。

この本泊は、おそらく pon-tomari で「小さな・泊地」という意味なのでしょうね。いや、鴛泊で時間を取られたから、残り二つは簡単なものを選んだ、というわけでは……

答合わせということで、更科源蔵さんの「──地名解」を見てみましょう。

 本泊(もとどまり)
更科源蔵更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.208 より引用)

あれ? いきなりルビからして違いますが……。

 鴛泊の港から四キロ、鴛泊と同じほどの小学校があるところで、もとはポントマリのポンに本の字を当てたので、いつの間にか本をモトと読むようになった。
更科源蔵更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.208-209 より引用)

ふむふむ。確かに説得力のある話なのですが、http://map.japanpost.jp/pc/addrlist.php?code=01:519 を見たところでは、現在は「本泊」は「ほんとまり」と読んでいるようにも見受けられます。

続きを見てみましょうか。

ポン・トマリは小さい入江の意で、昔でも三百石以上の弁才船が入ることができないので、沖がかりをしなければならなかった、いわゆるポントマリ(役にたたない港)であった。
更科源蔵更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.208 より引用)

更科さん……(汗)。んまぁ、確かにそういう意味なのでしょうけど……。

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