Bojan International

旅行記・乗車記・フェリー乗船記やアイヌ語地名の紹介など

アイヌ語地名の傾向と対策 (167) 「毛登別・大奮・ツネオマナイ川」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院電子国土Webシステムから配信されたものである)

毛登別(けとべつ)

keto-pet?
皮張枠・川
kito-(us-)pet?
ギョウジャニンニク・(多くある・)川

 

(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)

中頓別町小頓別から堀割の峠を越えた先の、旧・歌登町域の地名で、同名の川もあります。昭和の中頃には歌登町営軌道が走っていたところですね。今回も、更科源蔵さんの「アイヌ語地名解」を見てみましょう。

これまでの地名解にはのっていない幌別川の支流の名で、ケトウペツは古い地図ではケトベツとなっている。

ふむふむ。割と古くから「ケトベツ」という音が記録されているのですね。

ケトまたはケッは熊の皮をはる木の枠をいうのであるが、いつも皮を乾すところならケトンチウシとなるべきだと思う。
更科源蔵更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.202-203 より引用)

確かに。ket-un-chi-us-i か、あるいは ket-us-pet あたりで無いとおかしいような気がしますね。ちなみに ket-un-chi あるいは ket は獣の皮を張って乾かす枠の意味です。

上毛登別の間は崖があり、その崖の岩が乾枠に似ているので名づけたのかとも思うが、
更科源蔵更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.203 より引用)

アイヌ語地名解」に親しんでいる方には、もしかしたらこの文章から「嫌な予感」を覚える方もいらっしゃるかもしれません。そうだとしたら、とても勘の鋭い方ですね。

ケ卜でなくキトでアイヌ葱に関係ある地名かも知れない。
更科源蔵更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.203 より引用)

ぎゃふん(死語)。最後の最後でちゃぶ台を返されてしまいました(汗)。kito はご存じ「ギョウジャニンニク」のことなのですが、かといって kito-pet というのもびみょうに変ではあります(本来は kito-us-pet になる筈)。

なーんか収拾が付かなくなったので、我らが「角川──」(略──)を見てみましょうか。

「ケト」は「獣皮を張って乾す枠」,あるいはそれを組立てる「細い棒」(地名アイヌ語小辞典)で,ケトベツ沢の形が似ていることから名付けられたという(歌登町史)。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.520 より引用)

ふむふむ。まだ続きがあります。

この沢にはギョウジャニンニクが多く,ケトベツはキトペッで,「行者蒜の多い沢」の意ともいう。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.520 より引用)

あららら……。後者には出典が明記されていませんが、結局は両論併記なんですね。困ったな……。

とりあえず、keto-pet で「皮張枠・川」か、あるいは kito-(us-)pet で「ギョウジャニンニク・(多くある・)川」のどちらか、ということで手を打ちたいと思います(手を打ってない)。

大奮(おふん)

o-hum-taor-oma-nay?
川尻・切り立った・川岸の高所・そこにある・川

 

(? = 典拠あり、類型未確認)

旧・歌登町の南部、志美宇丹(しびうたん)の南西に位置する地名です。一見アイヌ語では無いようで、かといって和名にしても、ちと変な地名です。

今回も、更科さんの「アイヌ語地名解」を見てみましょう。

 歌登町字オフンタルマナイは、徳志別川の支流の名から出た字名で、この川は徳志別川の本流に比較出来るほどの水量をもち、シピウタン川、ツネオナイなど、相当の枝川をもっているが、語源についてはあまり他に例のない特殊なもので、これまでだれもこの地名に手をふれていない。
更科源蔵更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.203 より引用)

相変わらず一文が長い……(そこか)。

地元ではあまり地名が長いので小学校名を「大奮小学校」として、集落名もオーフンとか、オフンとか呼ぶのを普通にしているという。
更科源蔵更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.203 より引用)

はい、実はこの「大奮」と書いて「おふん」と読ませる地名は、オフンタルマナイ川に由来していたのでした。そして、この「あまり他に例のない特殊な」語源ですが、o-hum-taor-oma-nay で「川尻・切り立った・川岸の高所・そこにある・川」ではないかとのこと。

これはオフンタルマナイ川が合流する徳志別川にも言えることなのですが、旧・歌登町域では盆地状の地形なのに、そこから下流にあたる部分は左右に山が迫った峡谷のような地形です(面白いことに、現代でも川に沿った道路がありません)。

オフンタルマナイ川も、徳志別川に合流する手前(=川尻)のあたりは左右に山が迫りつつあります。このような地勢から名付けられたのかもしれません。

ツネオマナイ川

tunnay-oma-nay
谷川・そこにある・川

 

(典拠あり、類型あり)

オフンタルマナイ川の支流で、坊主山のあたりに源を発する深い谷川です。気になる地名の由来ですが、意外なことに「角川──」(略──)に記載がありました。

地内アイヌ語地名のニタチナイの二タッは湿地,ツネオマナイはツンナイオマナイで,「谷川がそこにある沢」の意。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.324 より引用)

ふむふむ。tunnay-oma-nay で「谷川・そこにある・川」となりますね。ちょっと循環参照気味ですが、「谷川・そこに入る・川」とすると少しは意味が通りやすくなるかも知れません(この場合の「入る」は、河口から山奥に分け入っていくという意味です。アイヌの流儀ですね)。

(この背景地図等データは、国土地理院電子国土Webシステムから配信されたものである)

前の記事続きを読む

www.bojan.net
Copyright © 1995- Bojan International