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アイヌ語地名の傾向と対策 (601) 「ニセイパロマナイ川・温根別・オロウエンベツ川・シュルクタウシベツ川」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

ニセイパロマナイ川

nisay-par-oma-nay
峡谷・入口・そこに入る・川
(典拠あり、類型あり)

犬牛別川の北支流で、イパノマップ川の西隣を流れています。地理院地図には「ニセパロマナイ川」とありますが、さてどっちが正しいのか……。

「東西蝦夷山川地理取調図」には記載が見当たりませんが、丁巳日誌「天之穂日誌」に記載がありました。

またしばし行て、愈(いよいよ)両岸峻敷成、
    ニセイバロマフ
両岸峨々たる岩壁のよし也。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読「丁巳東西蝦夷山川地理取調日誌 下」北海道出版企画センター p.108 より引用)

これは、素直に nisay-par-oma-nay で「峡谷・入口・そこに入る・川」と読み解けそうですね。地形図で見た限りでは、上流部に「北静川溜池」という溜池がありますが、そこから先が特に険しそうな感じです。

深川市北部の雨竜川の支流にも「ニセイパロマップ川」がありますが、それとほぼ同じ系統の川名と考えて良さそうです。

温根別(おんねべつ)

onne-pet
長じた・川
(典拠あり、類型多数)

士別市西部の地名で、「温根別町」という集落があります。士別から国道 239 号を西に向かうと温根別で左折しないといけないのですが、つい勢いで直進してしまった経験をお持ちの方も多いかと思います(滅多にいないのでは)。

間違えて直進してしまうと道道 251 号「雨竜旭川線」に入りますが、この道道 251 号沿いを「温根別川」が流れています。温根別川は犬牛別川の支流の中でも最大のもので、朱鞠内湖のすぐそばが水源です(朱鞠内湖からの取水も行われているようです)。

丁巳日誌「天之穂日誌」には次のように記されていました。

しばし急流を行、
    ヲン子ベツ
    サアケベウシ
等右の方小川のよし。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読「丁巳東西蝦夷山川地理取調日誌 下」北海道出版企画センター p.109 より引用)

この「ヲン子ベツ」が「温根別川」のことです。意味は onne-pet で「大きな・川」あるいは「老いた・川」で、個人的には「長じた・川」という表現を好んで使っています。犬牛別川の支流の中では最も規模が大きいことから、このように呼ばれたのでしょうね。

なお、「サアケベウシ」についてはどの川のことを指しているのかさっぱり不明でした。

オロウエンベツ川

oro-wen-pet??
その中・悪い・川
(?? = 典拠なし、類型あり)

温根別川の上流部で合流している西支流の名前です。温根別川の支流の中では最も大規模なもの……だと思います(流長や流域面積において)。

これも素直に oro-wen-pet で「その中・悪い・川」と考えていいのでしょうね。具体的にどこがどう悪いのかは今ひとつ明確ではありませんが、「水が悪い」のであれば wakka-wen-pet となることが多いので、川の中がぬかるんでいて歩きづらい、とかかもしれません。

シュルクタウシベツ川

surku-ta-us-pet
トリカブトの根・掘る・いつもする・川
(典拠あり、類型あり)

犬牛別川の西支流の名前です。士別市温根別町の西にトヨタ自動車のテストコースがありますが、シュルクタウシベツ川はトヨタのテストコースの近くを流れています(川とテストコースの間に国道が通っていますが)。

意味するところは明瞭で、surku-ta-us-pet で「トリカブトの根・掘る・いつもする・川」です。トリカブトの根には毒性があり、アイヌは仕掛け弓にトリカブトの毒を塗って、罠にかかった獣をその毒で仕留めていました。

山田秀三さんの「北海道の地名」も見ておきましょう。

シュㇽクはどこにもあるが,毒性の強いものの産地に採りに行ったそうで,ここはその名産地だったという。温根別の市街の雑貨屋に立ち寄り,今でも「とりかぶと」が生えていますか,と聞いたら「ええそうですよ,何でも毒の強いのと弱いのがあるそうです。宅にも鉢植えがあります」とそこの主婦が話された。
山田秀三北海道の地名」草風館 p.152 より引用)

このように地名(川名)になるくらいですから、シュルクタウシベツ川沿いで採れるトリカブトの根は「高品質」で知られるブランド物だった、ということのようですね。

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