やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。
チララウスナイ川
南稚内駅の北西側を流れる川の名前です。地理院地図にも川として描かれていますが、残念ながら川名の記載はありません。
「東西蝦夷山川地理取調図」には「チライウシナイ」という名前の川が描かれていました。「再航蝦夷日誌」には「ツラウラウシ」とあり、「竹四郎廻浦日記」には「ツラツラウシ」とあります。これは……混乱の予感が……(汗)。
永田地名解には次のように記されていました。
Chiraurau ushi チラウラウ ウシ 天南星アル處
これまた良くわからないことを……と思ったのですが、「天南星」って植物の名前だったんですね(!)。となると知里さんの「植物編」の出番ということで。
§ 363. エゾテンナンショォ Arisaema peninsulae Nakai
( 1 ) rawraw (ráw-raw)「らウラウ」 球莖 《北海道全地》
注.── rawraw わ rámram(鱗)から來たか。とすれば,僞莖面の斑紋にもとずいた名稱である。方言でも蛇の松明と云っているのが思いあわされる。
( 2 ) rawraw-pi「らウラウ・ピ」 種子 《同上》
どうやら rawraw で「
「植物編」を良く見ると、次のページに「カラフトヒロハテンナンショォ」がありました。
§ 363. カラフトヒロハテンナンショォ
Arisaema robustum Nakai var. sachalinense
Miyabe et Kudo
ereraw (e-ré-raw)「ェれラゥ」 球莖 《白浦,眞岡》
頭に e- がつきましたが、それでも「チラウラウ」「ツラウラ」「ツラツラ」には届かない(?)感がありますね。chi-rawraw-us-i や chi-ereraw-us-i は、このままでは解釈できないように思われます。
さてどうしたものか……というところですが、「午手控」には次のように記されていました。
ツラウラウスナイ
本名チラヱウシナイなるよし
あー。「チラウラ──」系の呼び方は転訛したものである、と明言してますね。となると「東西蝦夷──」の「チライウシナイ」が俄然チャートのトップに躍り出るわけでして……。chiray-us-nay であれば「イトウ・多くいる・川」と考えて良さそうです。
トベンナイ川
「開基百年記念塔」などがある「稚内公園」の北麓を流れる川の名前です。「東西蝦夷山川地理取調図」には「トウヘンナイ」という名前の川が描かれていました。「再航蝦夷日誌」には「トベナイ」とあり、「竹四郎廻浦日記」には「トヘナヱ」と記録されています。
永田地名解には次のように記されていました。
To ben nai トベン ナイ 甘川
「甘い川」とはこれいかに……という話ですが、旭川に「ペーパン川」が実在するだけに、「トベンナイ川」が「甘い川」だったとしてもそれほど驚くことは無いのかもしれません。
もう少し「ありそう」な形を考えてみると、{tope-ni} で「イタヤカエデ」を意味するので {tope-ni}-un-nay で「{イタヤカエデ}・ある・川」あたりでしょうか。
知里さんによると、tope を分解すると to-pe となり「乳房・水」と解釈できるとのこと。tope-ni は「乳汁・木」となりますが、これは「イタヤカエデ」が樹液をもたらすことからそう呼んだようです。
そして「イタヤカエデ」の樹液が甘かったことから、topen が「甘い」という意味になったとのこと。「イタヤカエデ(のある)川」と「甘い川」は、元を辿れば同じもの……ということになりそうです。
山田秀三さんは「北海道の地名」で次のように記していました。
水がおいしいという意味でトペン・ナイ(topen-nai)だったのであろうが,あるいはトペ(ニ)・ウン・ナイ「tope(ni)-un-nai いたやもみじの木・がある・川」だったのかもしれない。
ふむふむ。さすが山田さん、慎重ですね。topen-nay で「甘い・川」と言うのは「水が美味しい川」と捉えることもできる、ということですね。
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