社会主義体制の崩壊とポーランドの没落
ポーランドという国は、第二次世界大戦の前と後で、領土がごっそりと西寄りにずれた過去を持ちます。敗戦国ドイツから領土を取り返した(ん、もしかしたら逆に割譲されたのかも)のはまぁいいとして、「その代わりに」とばかりに東側の領土をごっそりソ連に召し上げられるという、いかにも気の毒な役回りの国です。
このように、ポーランドという国は、ドイツとソ連(ロシア)という両大国の挟閒にあって、激動の 20 世紀をしたたかに生き抜くことになります。東西冷戦という「失われた 40 年」とも言うべき悲しい時代が過ぎると、繁栄を謳歌する西欧諸国とは裏腹に、「計画経済」という名の「計画以下の経済成長」に甘んじていた東欧諸国は、「社会主義体制」という後ろ盾を失った結果、一気にヨーロッパの「三流国」に転落してしまいます。
ポーランド人は高速バスでイギリスに向かう
東欧諸国の中には、かつてのユーゴスラヴィアのようにソ連と距離を置いた共産主義?で成功したケースや、ハンガリーのように共産圏でありながら西側諸国との交流をある程度保つことで成功した?ケースもありましたが、ソ連と東ドイツに挟まれたポーランドには、そのような器用な真似はとてもできない相談だったようです。結果として、ソ連の崩壊後、経済は低迷を続け、多くの市民が海外への出稼ぎを強いられることとなります。
ポーランド人の出稼ぎ先ですが、東西統一直後で混乱の極みにあるドイツは NG、崩壊したばかりのロシアにも仕事があるわけは無く、結果としてその多くがイギリスに向かったそうです。ショパンの如くフランスに向かわなかったのは……どうしてでしょうね。ニコラ・サルコジの鼻がでかいのに我慢ならなかったのでしょうか(たぶん違う)。
もっとも、イギリスに出稼ぎに出たところで、ポーランド人の多くは英語も碌に読み書きできなかったそうで、「イギリスで一旗あげるぞ!」とばかりに意気込んで乗り込んだものの、多くは皿洗いなどの雑用程度の仕事にしか就くことができず、失意の内に帰国したり、あるいは帰国すらままならなくなりホームレスに身を窶す例も少なくなかったといわれます。
イギリスはジュネーブ条約を批准しています
さて、イギリスは、「道路交通に関する条約」として「ジュネーヴ条約」だけを批准しています。ただ、一方のポーランドは「ジュネーヴ条約」と「ウィーン条約」の両方を批准していますので、結果としてポーランドの免許証はイギリス国内でも効力を有することになります。
先日、サンフランシスコに行ったときに改めて思ったのですが、日本もアメリカも「道路交通に関するジュネーヴ条約」の批准国です。従って、日本で運転免許を取得したとしても、「国際運転免許証」という断り書き一冊をもらうだけで、アメリカでも車の運転ができてしまいます。アメリカの交通法規について何ら学ぶことなく、です。
同様の危惧は、イギリス国内におけるポーランド人にも当てはまります。その当然の帰結として、イギリス……ではなく、お隣のアイルランドでの話ですが、ポーランド人が交通違反を繰り返す、ということになってしまいました。
プラヴォ・ヤズディの伝説
中でも、Prawo Jazdy なるポーランド出身の人物は、アイルランド国内にて交通違反を 50 回近く繰り返したと言われます。
発端
ガーダ(アイルランドの警察官)アイルランドは 1990 年代から「ケルトの虎」と呼ばれるほどの経済成長が進み、ポーランドなどの旧東側諸国から労働者を受け入れていた。しかしその一方で、アイルランド警察はポーランド出身の人物「プラヴォ・ヤズディ」に手を焼いていた。ヤズディはアイルランドの国内各地でスピード違反や駐車違反など、およそ 50 件の交通違反を繰り返していたが、取り締まりのたびに住所が異なっているなど不審な点が見られた。そこでアイルランド警察はプラヴォ・ヤズディというポーランド人について調査を開始した。
約 50 件の交通違反というのも相当なものですが、「取り締まりのたびに住所が異なっている」というのもすんごく怪しいですよね。
こちらが、プラヴォ・ヤズディ(Prawo Jazdy)の文字が記された運転免許証です。
(Wikimedia Commons より借用。この写真はパブリック・ドメインです:
This image is in the public domain because according to Article 4, case 2 of the Polish Copyright Law Act of February 4, 1994 (Dz. U. z 2006 r. Nr 90 poz. 631 with later changes) "normative acts and drafts thereof as well as official documents, materials, signs and symbols are not subject to copyrights". Hence it is assumed that this image has been released into public domain. However in some instances the use of this image in Poland might be regulated by other laws. )
プラヴォ・ヤズディの真実
さて、この「プラヴォ・ヤズディ」の真実ですが……
真相
アイルランド警察がプラヴォ・ヤズディについて調査した結果、意外な真実が明らかになる。実は Prawo Jazdy とはポーランド語で「運転免許証」という意味であることがわかったのである。すなわちプラヴォ・ヤズディというなぞの人物の真相とは、交通違反を犯した運転手のポーランド人から提示された、ポーランドで発行された運転免許証の冒頭に書かれている PRAWO JAZDY を、取り締まりにあたった警察官が運転手の名前と誤認していた事例が 50 件近く繰り返されていたというものであった。
(Wikipedia 日本語版「プラヴォ・ヤズディ」より引用) ※ 強調部は引用者による
ぎゃははははは(笑)。
なお、この一件により、アイルランド警察は 2009 年度のイグノーベル文学賞を受賞したそうです。でも、どうせだったら「プラヴォ・ヤズディ」さんにイグノーベル賞を差し上げたかったところですね(笑)。
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