やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
ニセイケショマップ川
北見市留辺蘂町の西部を流れる無加川の支流の名前です。留辺蘂町厚和を流れる「ケショマップ川」とは別の川なのでお間違えなく。
「ケショマップ川」は nupuri-kes-oma-p で「山・下・そこにある・もの」でしたが、こちらは nisey-kes-oma-p で「断崖・下・そこにある・もの」と解釈できそうです。地形図で見ても、近辺の他の川と比べて(多少ではありますが)等高線の間隔が狭くなっているところが多く、断崖絶壁の下を流れている感が高そうな感じがします。
イトムカ(伊頓武華)
北見市留辺蘂町西部の、国道 39 号沿いの地名です。かつて水銀鉱山があったことで有名な地名ですね。一応「伊頓武華」という字が当てられたようですが、画数が多くて書きづらいからか、鉱山の名前などはカタカナ表記の「イトムカ」がそのまま使われていたようですね。
そこそこ名のしれた地名である「イトムカ」ですが、山奥だったことも災いしてか、その由来は詳らかではありません。ということで、前置きも程々に、山田秀三さんの「北海道の地名」を見てみましょう。
イトムカ
留辺蘂町内。無加川水源の右股の名,地名。わが国最大の水銀鉱山のあった処(今は廃山)。
はい。イトムカの水銀鉱山は 1974 年に採掘を終了していますが、跡地は水銀含有廃棄物のリサイクル工場として健在です。かつては水銀を採掘し、現在は水銀製品を回収して再利用しているというのも面白いですよね。
さて、本題に戻りましょうか。
語義は不明。そのまま読めば i-tomka(それ・輝かす)とも,また i-tom-muka「それが・輝く・無加川(支流)」とも聞こえる。i-tom-utka(それが・輝く・早瀬)とも読める。鉱物が光って見えたものか。
ふむふむ。tom という単語は初めて耳にするような気がするのですが、確かに萱野さんの辞書には「(キラッと)光る,照る,輝く.)」とあります。
また、更科源蔵さんの「アイヌ語地名解」には、次のようにあります。
イトムカ
層雲峡に越える大雪国道の途中、水銀鉱のあったところ、古い五万分図にはイトンムカとあり、無加川の左支流の名であるが、
相変わらず「途中、……ところ、……とあり、……であるが、」という句点の無い文章なのは流石ですが、閑話休題。古い地図には「イトンムカ」とあるのですね。山田さんは i-tomka、i-tom-muka、i-tom-utka の三つの可能性を記していましたが、「イトンムカ」という表記からは i-tom-muka が一番近そうに思えてきます。
あ、まだ続きがありましたね。
イトンの意味不明。
……(汗)。まぁ、仮に「イトンムカ」という記録が無かったとしても、i-tom-{muka} が一番あるんじゃないかなぁと思ったのですけどね。ということで「それ・輝く・無加川(の支流)」と考えていいんじゃないかなぁと思います。
→ 無加川
ルベシナイ川
国道 39 号の「石北峠」を越えると、「雪見台」とあるあたりからルベシナイ川に沿って西に向かうことになります。地形図を見ると、ルベシナイ川沿いに遡る「けもの道」もあるようで、どうやらこれが石北峠の旧道のようですね。ルベシナイ川は、国道 39 号が武華トンネルに向かうあたりで支流の「ポンルベシナイ川」と合流します。pon は「小さな」という意味ですね。
さて、「ルベシナイ」という地名(川名)は道内のあちこちにありすぎて、逆に典拠を探すのが大変なのですが、「北海道地名誌」に記載が見つかりました。
ルペシナイ川 石北峠から流れ,ユニイシカリ川と合し石狩川に入る流れ。アイヌ語の道の通る川の意。この川を伝って北見イトムカに山越えをした。
はい。ru-pes-nay で「道・それに沿って下る・沢」と考えて良さそうです。ru-pes-pe で「ルベシベ」という地名(川名)も多いですが、ここは pe(もの)が nay(沢)に変わった形ですね。
国道 39 号はルベシナイ川沿いに下がるのではなく、わざわざ武華トンネルで山を越えて北に向かっていますが、これはルベシナイ川の下流に「大雪湖」があって、橋を架けるか大回りを余儀なくされることも影響しているのでしょうね(大雪湖が無かったとしても、武華トンネル経由のほうが若干距離が短くなります)。
大雪ダムが無かった頃は、ルベシナイ川に沿って下るのが一番自然なルートだったと思われます。「ルベシナイ」の名前の所以ですね。
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