やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
ヌカンライ沢川
ホルカンノ沢が合流する地点から更に新冠川を遡ったところに「糸納峰山荘」という建物があり、その近くに「みやま大橋」という橋が架かっています。ヌカンライ沢川はみやま大橋の上流部で新冠川に合流する北支流の名前です。
「糸納峰山荘」は「イドンナップ」から来ているのでしょうね。かなり傑作な当て字だと思います。
さて、ヌカンライ沢川ですが、戊午日誌「東部毘保久誌」には次のようにありました。
またしばしを上りて
ヌカンライ子
左りの方小川。其名義はしらず。源はヌカヒラの源と一枕に成るよし也。
うーん、今回も残念ながら「よー知らんけど」のようですね。ということで、こんな時こそ永田地名解の出番です!
Nukara inep ヌカラ イネㇷ゚ 何處モ見エル處
……。ドコモショップが見える所でしょうか(違います)。確かに nukar は「見る」という意味で、ine-p は「四つ」という意味のようです。そうか、nukar-{ine-p} で「見える・{四つ}」となりますから、それが転じて「四方が見える」という意味なんですかね!
ヌカンライ沢川を源流まで遡って行くと「ヌカンライ岳」という山があります。新冠町と平取町の境から少し新冠寄りの位置にある山ですが、確かに眺望はかなり良さそうな所です。
もう少し一般的な解を考えてみると、noka-un-rawne-p で「形像・ある・深い・もの」とかでしょうか。nokan-rawne で「小石・深い」というのも考えてみたのですが、さすがにちょっと無理があるような気がしました。
2021/5 追記
もう少し素直に nokan-nay で「細かい・沢」と解釈できるかもしれません。
ブイラル別川
新冠川の「みやま大橋」から 500 m ほど上流部で合流している北支流の名前です。地理院地図には「ブイラル別川」と書かれているのですが、80 年代の地図にはなんと「布衣拉尓別川」と書かれていました。まるで中国東北部あたりの川名のような感じすらしますが……(汗)。
山の奥深くを流れている川の割には、「布衣拉尓別」のインパクトが大きいからか、割と情報は豊富だったりします。まずは戊午日誌「東部毘保久誌」から見てみましょうか。
またしばしを過て
ウイラルイベ
左りの方小川。其名義もしれず。
はい。いつもの「よー知らんけど」のようです。ただ、今回はなんと続きがあります!
其源は何れに当り候哉。山嵯峨しく、其え堅雪の時たりとも誰も行もの無よりして、しるものなし。
まるで鴨長明の「方丈記」を思わせるような、叙情豊かな名調子ですね……。
永田地名解にも記載がありました。
Puira rui pe プイラ ルイ ペ 瀬大ナル處 松浦地圖「ウイラルイヘ」ニ誤ル
瀬が大きい……どういう意味でしょうか。
ということで、久しぶりに山田秀三さんの「北海道の地名」を見てみましょう。
プイラルベツ川
新冠川上流の北支流。新冠・沙流の境の高山幌尻岳から直下している川。永田地名解も,明治の測量図もプイラルイペッと記す。puira-rui-pet(激流・はげしい・川)の意。
はい。実は結構そのまんまの地名だったのでした。puyra-ruy-pet で「激流・激しくある・川」だったみたいです。あと、山田さんもさりげなく指摘しているのですが、古い記録には「ブイラルイベツ」とあるんですよね。現在の「ブイラル別」という表記は、残念ながら ruy の y が落ちてしまっているようです。太川さんもさぞかし残念に思っていることと思います(関係ない)。
ルイベツ岳
ブイラル別川と新冠川の間にそびえる標高 1540.8 m の山の名前です。またしても太川さん系の地名でしょうか(太川さん関係ない)。
山の名前になるとみんな冷たい……というか、いつも記録がグッと減るのですが、今回も「北海道地名誌」に次の記載を見つけたのみでした。
ルイベツ岳 1,541.4 メートル 新冠川水源部と支流布衣拉爾別川(ぷいらるべつ川)の間の山で東側山中に奥新冠ダムがある。
む、「尓」は「爾」の略字だったんですね。
「ルイベツ」は川から出た名でアイヌ語ではげしい川の意か。
「川から出た名」と言う割には「ルイベツ」という川が見当たらないのですが、これはやはり「プイラルイベツ」の puyra を省略したもの、なんでしょうね。山の名前なのに ruy-pet で「激しくある・川」ということみたいです。ルイ・r(ry
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