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アイヌ語地名の傾向と対策 (623) 「三笠幌内川・奔幌内川・抜羽の沢川」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

三笠幌内川(みかさほろない──)

poro-nay
大きな・川
(典拠あり、類型多数)

三笠市役所の前にある「中央公園」からまっすぐ南(やや東偏してますが)に向かうと、幾春別川を渡った先に「クロフォード公園」という名前の公園があります。この「クロフォード」は、北海道にアメリカの鉄道技術を伝えた Joseph Ury Crawford に因む公園だそうですね。

三笠幌内川は「クロフォード公園」の西で幾春別川と合流する川の名前です。三笠市域を東から西に流れる幾春別川の南支流、ということになります。三笠幌内川沿いには、のちに「国鉄幌内線」となる「幌内鉄道」の線路が伸びていました。「クロフォード公園」自体も、国鉄幌内線・三笠駅の跡地に建設されたものです。

ということで、余談も程々に「北海道駅名の起源」を見てみましょう。

  幌 内(ほろない)
所在地 三笠市
開 駅 明治 15 年 11 月 13 日(幌内鉄道)(貨)
起 源 アイヌ語の「ポロ・ナイ」(親である川)、すなわち幌内川から出たものである。昭和 47 年 11 月 1 日貨物駅となった。
(「北海道駅名の起源(昭和48年版)」日本国有鉄道北海道総局 p.61 より引用)

幌内駅のあったところには、現在は「三笠鉄道記念館」があり賑わいを見せていますが、旅客営業を終了したのが思いのほか早かったんですね……(地名解と全く関係ない)。

閑話休題、「幌内」についてです。poro は一般的には「大きい」と解釈されることが多く、「親である」という概念的な解釈を付加したのは知里さんだったでしょうか。この場合、poro-nay があれば pon-nay(「小さな・川」あるいは「子である・川」)の存在が期待されますが、実際には「幌内川」の支流に「奔幌内川」が存在するものの、pon-nay という名前の川は確認できません。

幾春別川には多くの南支流があり、あるいは「珍古池の川」あたりが pon-nay と呼ばれていたのかもしれません(特に根拠は無く、地形図を眺めた感じでは poro-nay と対になる川としてはここかな、という程度の予想です)。

いずれにせよ、「三笠幌内川」がこのあたりの幾春別川の南支流としては飛び抜けた規模のものだったことは間違いなく、poro-nay で「大きな・川」と呼ばれたことは自然な成り行きだったと思えます。poro-nay 自体は北海道や樺太に多数存在したため、同名の「幌内」との混同を避けるために市名の「三笠」を冠した、といったところでしょう。

奔幌内川(ぽんほろない──?)

pon-{poro-nay}
子である・{幌内川}
(典拠あり、類型あり)

「三笠鉄道記念館」の東で幌内川と合流する東支流の名前です。アイヌ語poro は「大きい」(知里さん流の解釈では「親である」)で、pon は「小さい」(「子である」)なのはご存知の方も多いと思います。では pon-poro とはこれいかに……という話ですが、「角川──」(略──)には次のように記されていました。

 ほろないぽんぽろないちょう 幌内奔幌内町 <三笠市>
〔近代〕昭和36年~現在の三笠市の町名。もとは三笠市字幌内の一部。アイヌ語のポン・ポロ・ナイ(小さい・大きい・川の意)に由来する地名。昭和30年頃炭住地域となる。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.1368 より引用)

「小さい・大きい・川」と来ました。まるで「小さいけれど大きい川ってなーんだ?」というなぞなぞのようですが、ここで前述の知里さんの「概念的な解釈」が生きてきます。つまり、pon-{poro-nay} は「子である・{幌内川}」と解釈すれば良いのだ、ということです。

poro に「幌」の字を当てるのは道内各所で見られますが、一方で pon はそのままカタカナで「ポン」にしてしまうケースが多く見られます。ただ、空知炭田エリアでは「奔」の字を当てるケースが多いようですね。「奔放」の「ホン」ですが、「出奔」では「ポン」と読むのでちょうどいい、ということでしょうか。

抜羽の沢川(ぬっぱのさわ?──)

nup-pa-oma-nay
野原・かみて・そこに入る・川
(典拠あり、類型あり)

幾春別川の北支流で、三笠市中心部の東側を流れています。幾春別川の北支流では「奔別川」が圧倒的な規模を誇りますが、奔別川を除けば大規模な支流のひとつです。

「抜羽の沢」とは和名にしては面白いネーミングだなぁ……と思っていたのですが、何のことは無い、明治の頃の地形図にはこの川のところに「ヌッパオマナイ」と記されていました。ということで、思いっきりアイヌ語由来の地名だったのでした。

nup-pa-oma-nay であれば「野原・かみて・そこに入る・川」と読めます。三笠市の地名や川名は大半が和名や人名に差し替えられていますが、「幌内川」や「抜羽の沢川」と言った比較的大きな川は元の形に近い名前で残ったのは面白いですね(この傾向は三笠に限った話ではありませんが)。

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