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アイヌ語地名の傾向と対策 (691) 「ウルベシ川・ソウシュベツ川・苦頓別山」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

ウルベシ川

urir-ru-pes-pe
雨竜・路・それに沿って下る・もの(川)

 

(典拠あり、類型あり)

美深町西部、国道 275 号沿いを流れる川の名前です(天塩川の西支流)。「ウルベシ」とは耳慣れない名前だなぁ……と思ったのですが、明治時代の「北海道地形図」には「パンケウリリルペシュペ」と描かれていました。

山田秀三さんの「北海道の地名」には次のように記されていました。

永田地名解は「ウリリ・ルペシぺ。鵜川」と奇妙なことを書いた。これは彼がこの地方に来ないで,図面の地名だけで書いたかららしい。
山田秀三北海道の地名」草風館 p.145 より引用)

山田さんは「奇妙な」としましたが、実際には次のように記されていました。

Uriri rupeshpe  ウリリ ルペㇱュペ  鵜川 雨竜川ノ下ル路

ちゃんと「雨竜川ノ下ル路」との補足がありますね。urir で「鵜」を意味するというのも間違いでは無さそうなのですが、さすがに「ルペㇱュペ」を「川」と略したのは拙かったでしょうか。

松浦氏西蝦夷日誌は「ウリウルベシベ。是よりウリウ(雨竜)へ往古道が有りし由言伝ふ」と書いた。
山田秀三「北海道の地名」草風館 p.145 より引用)

これはその通りだと思うのですが、「西蝦夷日誌」にそのような記述があったかな……という疑問が残ります(そもそも「西蝦夷日誌」には美深のあたりの記述が無かったような気が)。

「ウリウルベシベ」は urir-ru-pes-pe で「雨竜・路・それに沿って下る・もの(川)」と解釈できます(知里さんの「音韻変化の法則」に従えば urin-ru-pes-pe となりますね)。

「ウリウルベシベ」の前後が略されて「ウルベシ」になった……ということでしょうか。ちなみに「ウルベシ」という地名もかつて存在していましたが、現在は「玉川」に改称されています。また「ウルベシ」は「閏可」と表記したようですが、この当て字はなかなか傑作ですよね。

ソウシュベツ川

so-us-pet?
滝・ついている・川

 

(? = 典拠未確認、類型多数)

美深町の玉川(かつての「閏可」)でウルベシ川に合流する北支流の名前です。「東西蝦夷山川地理取調図」には「ソウシベツ」という川と、その支流である「ホンソウシヘツ」という川が描かれています。

道内各所に類型がありますが、ここも so-us-pet で「滝・ついている・川」なのでしょうね。

面白いのが、水源にほど近いところにある山が「滝沢山」というところです(標高 651.3 m)。「ソウシュベツ川」の意味を理解した人がつけた山名だとしたら面白いですよね。更に「滝沢山」に「滝・沢山」と言う意味が含まれていたりしたら最高だったのですが……(何がどう最高なのか)。

苦頓別山(くとんべつ──)

kut-un-pet?
岩層のあらわれている崖・ある・川

 

(? = 典拠未確認、類型多数)

玉川(美深町)からウルベシ川を遡ると泉(美深町)にたどり着きますが、泉でウルベシ川に合流する「クトンベツ沢川」という西支流があります(美深町音威子府村の境を同名の「クトンベツ沢川」が流れていますが、それとは別の川です)。

泉(美深町)を流れるほうの「クトンベツ沢川」は上流部で二手に別れていますが、左側の支流?を遡った先に「苦頓別山」があります。アイヌは川にはとても細かく名前をつけていたのに対し、山については無頓着だった……という話がありますが、ここも仕方なく近くの川の名前を拝借した山名……という雰囲気がプンプンしますね。

明治時代の「北海道地形図」には「クート゚ンペッ」という名前で描かれています。これはやはり kut-un-pet で「岩層のあらわれている崖・ある・川」と解釈するのが適切なのかな、と思えます。

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