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ラウネナイ川
JR 石北本線の旧白滝駅(跡)の北(300 m ほど離れています)を流れる川の名前です。この「旧白滝」という駅名はこのあたりの地名である「旧白滝」に由来するもので、廃止されて現在の「白滝駅」に移動した……という訳ではありません。
このあたりは「13号沢川」や「15号沢川」などのナンバリングされた川名や、「神林沢川」のような人名由来?のものがあるほか、「パーライト沢川」という謎の(鉱物由来?)の川名もあったりするので、アイヌ語由来の川名はむしろ珍しい部類に思えてきます。
明治時代の地形図には「ラウ子ナイ」として描かれていました。rawne-nay で「深い・川」だと考えられます。rawne は「水が深い」という意味ではなく「両側が高い」と言うことで、rawne-nay は深く切り立った谷川であることが多いのですが、地形図で見た限りでは、他の川(「十号沢」や「幌加湧別川」など)とそれほど変わらないような気も……。
もっとも旧白滝駅周辺に限定して見た場合、「ラウネナイ川」は「13号沢川」と「15号沢川」の間を流れているのですが、「13号沢川」や「15号沢川」と比べると明らかに「深い川」と言えそうな気もします。いくつかある川のなかで「(比較的)深い川」、というニュアンスだったのでしょうね。
武利(むり)
「武利川」は丸瀬布の市街地の南で湧別川に合流する川で、武利川の流域の地名が「武利」(現在は合併に伴い「丸瀬布武利」)です。武利川は湧別川の支流の中では五本の指に入る規模の川でしょうか。
「テンキグサ」説
「東西蝦夷山川地理取調図」には「ムリイ」という名前の川が描かれていました。また戊午日誌「西部由宇辺都誌」にも次のように記されていました。
また過て
ム リ イ
左りの方相応の川なりと。此川また峨々たる山間に入るよし也。其名義は浜に有ムリチといへる草多く有るが故に号ると。葉は麦の如く蓆ものに織に用ゆ。
「海岸に自生する『ムリチ』と言う草が多いから」だと言うのですが、丸瀬布の山中に「海岸に自生する草」が多いというのは変ですよね。ただ永田地名解も似たような解を踏襲していて……
Muri-i ムリイ ムリ草アル處
「『ムリ草』が多いので」とのこと。とても残念なことに「ムリ草」についての補足は見当たりません。
山田秀三さんは永田地名解の解釈に次のような疑問を呈していました。
名詞の後に —i(処)と語尾がつかない。たぶんムリの語尾にアクセントがあってムリーと聞こえたのであろう。
確かにそうですね。そして「ムリ」については……
ムリ(muri, murit)は海浜に生える「おてんき草」だといわれるが,内陸の地名にもよくこの名が出て来る。植物に詳しい方に調べていただきたい。
山田さんの言う「おてんき草」は「テンキグサ」あるいは「ハマニンニク」と呼ばれる草のことで、知里さんの「植物編」には次のように記されていました。
§ 392. テンキグサ ハマニンニク Elymus mollis Trin.
(1) murit(mu-rit)「ㇺ里ッ」 莖葉 《幌別》
注 1.──文獻にわ次の様に出ている。
『ムリ』《A》《B》
『ムーリ』《鳥居龍藏,千島アイヌ,pp. 45, 193》
注 2.──北海道の漁村でわ,和人も「ムリッチ」とゆう。
ということで「ムリ草」は「テンキグサ」(ハマニンニク)であると認識されていたようですが、Wikipedia の「テンキグサ」には次のようにあります。
海岸の砂地に生える。北日本の海岸にはもっとも普通に見られるものである。北海道では砂丘の上面に広く生育するが、分布域の南の地域では砂浜の汀線に近い部分にだけ生育が見られる。
やはり「海岸の砂地に生える」とあります。海岸から遠く離れた川の名前と考えるのは無理がありそうな……。
「草・高い」説
山田さんの「北海道の地名」に戻りますが、次のような解釈もできるのではとのこと。
なお近文のシアヌレ媼にこの種地名を尋ねたらムン・リ(mun-ri 草が・高い)と思って来たがといわれた。確かに一つの意見である。
「確かに一つの意見」ですが、正直なところ他にそれらしい解釈が見当たらないという印象も……。mun-ri で「草・高い」と考えて良いのでは、と思われます。
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