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アイヌ語地名の傾向と対策 (206) 「シブサラビバウシ川・鎮錬・然別」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院地理院地図から配信されたものである)

シブサラビバウシ川

sup-sar-pipa-us-i?
葦・湿原・からす貝・多くある・ところ
(? = 典拠あり、類型未確認)

清水町美蔓のあたりから南東に流れて、帯広市で然別川に流れる川の名前です。「ビバウシ」は pipa-us-i なのでしょうが、「シブサラ」の意味がピンと来ません。ということで、今回も山田秀三さんの「北海道の地名」から。

 ピパウシはピパ・ウシ・イ「からす貝・多い・もの(川)」であるが,シプサラの語意不明。
山田秀三北海道の地名」草風館 p.316 より引用)

ありゃりゃ……。

この川口から西にかけての十勝川北岸がシュプサラと呼ばれていたので,そこのピパウシという意だったかもしれない。
山田秀三「北海道の地名」草風館 p.316 より引用)

ふむふむ。東西蝦夷山川地理取調図を見ると、確かにこのあたりに「シユフシヤリ」という川があったように描かれていますね。

ただしそのシュプサラの意味も分からない。あるいはシュプキ・サラ(shupki-sar 葭の・草原)が略された形ででもあったろうか。
山田秀三「北海道の地名」草風館 p.316 より引用)

なるほど。supki-sar の省略形ではないか、という説ですね。

何かヒントが無いかと思って「東西蝦夷山川地理取調図」を眺めていたのですが、「シユフシヤリ」の隣に「シユフンシマリヒトウシ」という川名?を見かけました。「シユフ」が「シユフン」だとすると、これは supun だった可能性もあるかもしれません。supun だと「ウグイ」となりますね。

このあたりは「ピパウシ」という川名がとても多かったため、区別のために接頭辞をつけた、という考え方は間違いでは無さそうな感じがします。シブサラビバウシは sup-sar-pipa-us-i で「葦・湿原」の「からす貝・多くある・ところ」か、あるいは supun-sar-pipa-us-i で「ウグイ・湿原」の「からす貝・多くある・ところ」と考えられそうかな、と思います。

鎮錬(ちんねる)

chin-rerke-oma-p?
(獣の皮の)張り枠・山向こうのところ・そこにある・もの
(? = 典拠あり、類型未確認)

音更町西部の地名です。いかにも珍名の予感がしますが、さて実際は……。

今回も、山田秀三さんの「北海道の地名」から。

永田地名解は「チン・レリㇰ・オマㇷ゚。獣皮を乾す彼方なる処?」と書いた。また大正初年の安田巌城氏は「原称はチンレレコマペッである」と書いた。
山田秀三「北海道の地名」草風館 p.316 より引用)

ふむふむ。やはりと言うべきか、何とも変わった解釈がついていますね。ちなみに「東西蝦夷山川地理取調図」には「チンレリコマヘツ」とありますので、概ね違いは無いようですね。続きを見てみましょう。

チンレルコマプ← chin-rerke-oma-p「獣皮乾し枠の・向こうの処・にある・もの(川)」(-p は pet でも実際は同義)だったのであろうか。
山田秀三「北海道の地名」草風館 p.316 より引用)

なるほど……。chin-rerke-oma-p ですね。確かに「(獣の皮の)張り枠・山向こうのところ・そこにある・もの」と解釈できます。何とも奇妙な地名に思えますが、旧・歌登町にも「毛登別」という地名があったりするので、実はちょくちょくある類のものなのかも知れません。

然別(しかりべつ)

si-kari-pet
自分を・回す・川
(典拠あり、類型多数)

河東郡鹿追町河東郡音更町を流れる川の名前で、音更町には同名の地名もあります。上流部にある「然別湖」も有名ですね。

では、今回は更科源蔵さんの「アイヌ語地名解」を見てみましょう。

 然別川(しかりべつがわ)
 十勝川の支流。まがりくねっている川の意。

えっ? もしかして、もう終わりですか?(汗)

あまりにあっさりと終わってしまったので、気を取り直して。山田秀三さんの「北海道の地名」から。

だいたいこの地方の大川はまっすぐ南流しているのに,この川だけが違った流れである。然別がシ・カリ・ペッ(shi-kari-pet 自分を・回す。川→回っている川)と呼ばれたのはその形からなのであろう。
山田秀三「北海道の地名」草風館 p.316 より引用)

確かに、士幌川も音更川佐幌川も、割とまっすぐ北から南に流れていますが、然別川だけが巨大な S 字を描いていますね。そこからの命名si-kari-pet なのですね。意味は「自分を・回す・川」で良さそうな感じです。

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