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アイヌ語地名の傾向と対策 (44) 「手宮・オタモイ・忍路・フゴッペ」

はい、週末恒例のこちらの話題です。今週も懲りずに行きましょう!

手宮(てみや)

temmun-ya?
菅藻の・岸
(? = 典拠あり、類型未確認)

手宮洞窟」などで有名な?ところで、小樽市街の北の方に位置します。あまり類を見ない地名なんですが、どんな意味なんでしょう。

ふむふむ、どうやら temmun-ya みたいですね。山田秀三さんはその意味を「菅藻の・岸」としています。萱野茂さんの辞書で逐語訳をしてみると「海辺のごみ・岸」となりますね。海藻が打ち上げられる浜辺、と理解すればいいのかも知れませんね。

おおっ、すっきりと終わった!

オタモイ(おたもい)

ota-moy
砂浜の・入江
(典拠あり、類型あり)

……ルビは要りませんね(←)。意味も明瞭で ota-moy で「砂浜の・入江」だと解されます。ただ、一点だけ不思議なのが、「オタモイ」の北側の海は地図で見る限りかなり峻険な崖のようなのですね。「オタ」も「モイ」も見当たらないのです。この辺の問題は山田秀三さんも認識していたのか、次のように記しています。

オタモイはオタ・モイ(砂浜の・入江)の意。地蔵堂の岩崖の下の入江の処が,現在小さな砂利浜になっているが,そこがこの地名でいうオタであったのだろう。
山田秀三北海道の地名」草風館 p.494 より引用)

とあるのですが、果たして……。というのも、「小樽」の語源と言われる「小樽内」も、随分と余所から引っ越してきた地名なので、もしかして「オタモイ」もお引っ越し地名なんじゃないかな、などとふと思ったり……。もちろん何の確証も傍証も無いんですが。

忍路(おしょろ)

us-or?
湾・の中
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)

「忍びの路」と書いて「おしょろ」と読みます。まずはいつものように「角川──」の記述を見てみましょう。

地名は,アイヌ語のウショロ(入江・湾・懐の意)に由来する(蝦夷地名考并里程記・西蝦夷日誌・北海道蝦夷語地名解)。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.289 より引用)

えーと、us-or で「湾・の中」という意味になるようですね。知里さんus-or ではなく upsor だ、と主張していたようですが、どっちにしろその意味するところは大して違いないようですね。

畚部(ふごっぺ)

hum-koi-ot-pe?
音・浪・多くある・(ある)もの
punki-ot-pe?
番人・多くいる・所
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)

「畚部」はかなりの難読地名ですが、「フゴッペ洞窟」ならご存じの方も多いかもしれません。さすがに「」は読めませんよね。ただ、国土地理院の地形図を見る限りでは、「畚部岬」という名前で健在のようです。

山田秀三さんも「畚部」の解釈には相当苦心していたようですので、先に「角川──」を見てみましょう。

古くはフグベ・フンコベ・フンゴヘ・フンゴヱなどともいい,●辺・糞部などとも書いた。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.1284 より引用)※ ●は「魚」偏に「屯」

はい。先を続けましょう。

フゴッペの地名はアイヌ語に由来するが,異論が多い。「北海道蝦夷語地名解」では,フムコイベ(浪声高き所の意)による説のほか,フンキオベ(番をする所の意),フンコベ(トカゲの意)による説などをあげる。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.1284 より引用)

「北海道蝦夷語地名解」は明治に編纂されたものですが、その時点でこれだけのブレがあるということは……前途多難です。

幸いなことに、最初の二説は山田さんがアルファベットに落としてくださっていました。ふむふむ、hum-koi-p(「音・浪・(する)もの」)では明らかに文法的にヘンなので、hum-koi-ot-pe(「音・浪・多くある・(ある)もの」)とすれば確かに筋は通ります。

「フンキオベ」のほうは punki-ot-pe で「番人・多くいる・所」となります。文法としては間違っていないと思うのですが、そもそも「番人」はそんなに多くないような気が……。あるいは punki-o-???-pe で、??? の部分がいつしか抜け落ちた、ということかも知れません。

「トカゲ」については……すいません。手がかりすら掴めませんでした。

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