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アイヌ語地名の傾向と対策 (715) 「別内沢・ポンネアンチシ山」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

別内沢(べつない──)

poro-nay?
大きな・川

 

(? = 典拠あるが疑わしい、類型多数)

道道 568 号「船澗美国港線」の起点あたりで美国川に合流する南支流の名前です。アイヌ語petnay は「川」を意味することが多く、それぞれ「別」と「内」という字が充てられる例が多く見られます。

nay は山中の細い流れに名付けられることも少なくなく、「沢」と解釈される場合もあります。つまり「別内沢」は「川・川・沢」あるいは「川・沢・沢」ということに成りかねません。果たしてこれはどう解釈すれば良いのでしょうか。

「東西蝦夷山川地理取調図」には美国川の南支流として「ヒラハナイ」「ハンケウシ」「ヘンケウシ」「ヲキラナイ」「ホロナン」「シユンクウシヒクニ」が記録されていました。また「竹四郎廻浦日記」には川の名前として「ヒラバ」「バンケクシ」「ヲキラシナイ」「ベンゲクシ」「ホロナイ」「シユムシリハンヒクニ」が記録されています。

これらの記録を見る限りでは、「別内沢」は「ホロナイ」と認識されていたように思えます。poro-nay は、一般的には「大きな・川」と解釈されます。

なぜ「ホロ」が「ベツ」に化けたのかは謎としか言いようがありません……。「ホロナイ」が道内の各所にあるので、他所の「ホロナイ」とは「別」なんだよ、というアピールだったりするのでしょうか……?

ポンネアンチシ山

po-{ne-an}-chis???
子・{に・なる}・中凹み
pon-ne-anchi-us-i??
小さい・ようである・黒曜石・ある・もの(川)

 

(??? = 典拠なし、類型未確認)(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)

道道 568 号「船澗美国港線」の起点あたりから更に美国川を遡ると、「我呂ノ沢」という支流が西から美国川に合流しています。余談ですが、道南には「ガロ」または「ガロー」という名前や読みの川が非常に多く、面白いことに道南以外ではほぼ皆無のような気がするんですよね。君とよくこの店にk……いやなんでも無いです。

小さな黒耀石の多い川

美国の「我呂ノ沢」も、古い地形図には「ポン子アンチシ川」と描かれていました。やはり元々はアイヌ語由来の名前があって、それが英語由来?の川名に置き換えられたと考えることができそうですね。

「我呂ノ沢」を地理院地図でも見ると、3 つの流れが最終的に 1 つにまとまっているように見えます。一番南の支流を遡るとポンネアンチシ山の頂上に向かうことになり、現在はこの川が「我呂川」と呼ばれているようです。

一方、明治時代の「ポン子アンチシ川」は真ん中の流れに相当します。この川の水源はポンネアンチシ山と余別岳の間の鞍部です。

「北海道地名誌」には次のように記されていました。

 ポンネアンチシ山 1,114.8 メートル 神恵内村との境界の山で,アイヌ語の小さい黒曜石の多いの意かと思う。
NHK 北海道本部・編「北海道地名誌」北海教育評論社 p.201 より引用)

pon-ne-anchi-us-i で「小さい・ようである・黒曜石・ある・もの(川)」と解釈すれば良いでしょうか。道東の置戸には「ポンオンネアンズ川」という川があり、この川は pon-onne-anchi ではないかとされています。この例から考えると、実は「ポンネアンチシ」も po-onne-anchi-us-i で「子である・大きな・黒曜石・ある・もの(川)」と考えることもできるのかもしれません。

小さな中凹み?

実際に黒曜石(黒耀石?)が良く取れるのであれば他に解釈の余地は無いと思われるのですが、この地形を見るとどうしても別の解釈を検討してみたくなります。積丹半島の最高峰は標高 1,297.7 m の「余別岳」で、その東北東に標高 1,255.4 m の「積丹岳」が並んでいます。

ポンネアンチシ山は余別岳の南南東に位置する標高 1,145 m の山です。この 3 つの山の間には少し窪んだ鞍部が存在していて、余別岳とポンネアンチシ山の鞍部から東に流れた水はやがて「ポンネアンチシ川」(旧称)となります。

「ポンネアンチシ」は po-{ne-an}-chis で「子・{に・なる}・中凹み」と考えられないでしょうか。

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