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北海道のアイヌ語地名 (1141) 「和天別川・フレナイ川・古瀬川」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。

(この背景地図等データは、国土地理院地理院地図から配信されたものである)
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和天別川(わてんべつ──)

uwatte-pet
群がっている・川
(記録あり、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院地理院地図から配信されたものである)

茶路川の河口に合流する西支流で、茶路川の支流の中ではもっとも大きいものです。もともとは独立して海に注いでいたと思われますが、沿岸流が運んだ砂によって河口が東に捻じ曲げられた結果、茶路川の支流となっています。

東西蝦夷山川地理取調図』(1859) には、「チヤロ」(=茶路川)の隣に「ワツテ」(=和天別川)という川が描かれていて、河口の間に島が描かれています。当時の「ワツテ」は、直接海に注ぐルートも残存していたのかもしれません。

『北海道実測切図』(1895 頃) では、現在と同様に茶路川の河口付近に合流する形で「ウワッテペッ」という名前の川が描かれています。

加賀伝蔵の『クスリ地名解』(1832) には次のように記されていました。

ウワテヘツ ウワッテ・ヘツ 多また(股)・川
  尤も此所の川小川に候得共、多枝川持有故名附由。
(加賀伝蔵・著 秋葉実・編「加賀家文書」北海道出版企画センター『北方史史料集成【第二巻】』 p.256 より引用)

また『東蝦夷日誌』(1863-1867) にも次のように記されていました。

ワツテ(左川)とは五本の指を開きし形と云。
松浦武四郎・著、吉田常吉・編『新版 蝦夷日誌(上)時事通信社 p.298 より引用)

永田地名解 (1891) には次のように記されていました。

Uwatte pet   ウワッテ ペッ   連枝川 「ウワッテ」ハ五指ヲ開キタル形ナリ此川支流多シ故ニ名ク

いきなりこの解が出てきたら「は?」となりそうですが、加賀伝蔵や松浦武四郎の解があると「ふむふむ」と思えてしまいますね(汗)。uwatte という語はあまり見た記憶が無いのですが、『地名アイヌ語小辞典』(1956) にも立項されていました。

uwatte ウわッテ 《完》多くアル(イル,ナル);群が(ってい)る。yuk ~ 鹿が群がっている(虎杖丸,442)。~ kotan【ビホロ】人口の多い村;大きな村。[<u-at-te(お互を・群がら・せる)]
知里真志保『地名アイヌ語小辞典』北海道出版企画センター p.142 より引用)

uwatte-pet で「群がっている・川」となるでしょうか。実際の地形を見ても、和天別川は中流部でいくつかの支流に枝分かれしているので、これを「群がっている川」と呼んだとしても不思議は無さそうな感じです。

山田秀三さんの『北海道の地名』(1994) によると、「和天別」はかつて「割手別」と書かれたこともあったとのこと。「指が開いた川なので『割手別』」というのはよく出来た当て字ですが、結局「和天別」となり、読み方も字に引きずられて「わてんべつ」になってしまった……ということみたいです。

フレナイ川

hure-nay
赤・川
(記録あり、類型多数)
(この背景地図等データは、国土地理院地理院地図から配信されたものである)

和天別川の河口付近に「フライトパーク白糠」という軽飛行場があり、その北側を流れています(和天別川の西支流)。国土数値情報では「白糠町総合給食センター」の敷地の北隣を流れる川が「フレナイ川」となっていますが、これは河川改修の結果かもしれません。

小さな川ですが、意外なことに『北海道実測切図』(1895 頃) にも「フーレナイ」と描かれていました。hure-nay で「赤・川」だと思われますが、何らかの理由で川底が赤く見える川だったのかもしれません。

古瀬川(ふるせ──)

purse-nay?
ずぶりとぬかる・川
(? = 記録あり、類型未確認)
(この背景地図等データは、国土地理院地理院地図から配信されたものである)

和天別川を渡る「駒越大橋」の近くで和天別川に合流する西支流(南支流)です。この川を遡って、水源部を南東に向かって「馬主来ぱしゅくる峠」を越えたところに JR 根室本線の「古瀬駅」がありました(2020 年 3 月に旅客扱いを廃止し古瀬信号場に)。

『北海道実測切図』(1895 頃) には「ポロセナイ」という川が描かれていました。『北海測量舎図』で「ポロセナイ」の位置を確認した限りでは、現在の位置ではなく、古瀬信号場から線路沿いを流れる川を指しているように見えます。

さて「ポロセ」とは何だろう……という話ですが、『地名アイヌ語小辞典』(1956) に次のような項目がありました。

pur-se ぷㇽセ 【クッシャロ】《完》ずぶりとぬかる。(水底に竿をつっぱったときなど)ずぶりと入っていく。[pur(擬声語根,ズブリという音をあらわす)-se(もと「云う」という意味の動詞);‘ズブリ・という’]
知里真志保『地名アイヌ語小辞典』北海道出版企画センター p.103 より引用)

陸軍図を見ると、線路と川の間が湿地帯のように描かれています。purse-nay で「ずぶりとぬかる・川」と見て良いかもしれません。「古瀬」が「ポロセ」よりも purse に近いというのもちょっと面白いですね。

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